感想・漫画編。

TWIN SIGNAL外伝 呪われし電脳神モイラ 2巻

著者:大清水さち

出版元:ガンガンWINGコミックス

ツインシグナルの外伝シリーズ、2巻にして早々に完結巻。表題作・モイラ編の後半と、オラトリオ達をメインにした過去エピソード・雪の女王編の全話と、合わせて2作を収録。いやまったく、雪の女王編が無かったらモイラの後半って読めなかったワケだしなー、あとがきの内容じゃないけど新担当さんの英断には感謝だ(笑)

ってなワケで外伝のレビュー、後半戦でございます。まずはモイラ編から。ギアとのラストバトルが主要部分となる今回ですが、その戦いを通して描かれた今作のテーマ、それはロボットの存在価値レゾンデートルという、哲学的でありロボットものマンガとしても相応しい命題への問いかけでした。ロボットはヒトの手によって生まれ・ヒトを越えることを求められ・そうでありながらヒトを越えたその先に滅びるしかない、ギアは自身の存在を見すえた果てにそう結論づけました。壊れた電脳の魂せいしんを抱えた彼は、世界の中での居場所を見失い、最期には滅びていった。人に従うしかないロボットは、そうある限りやがて滅びるしかないのだと、似て非なる存在のカルマを前に宣告して消えた。そしてカルマもまた、ギアの言葉にひとつの真実を見て、いつか自身が壊れたときは弟の正信に消されたいと、胸の内に悲しい決意を秘めた。

制作者ヒトと共に在るうちはロボットにも"光"を見ることができる、けれどそれでも未来の最果てには"闇"への回帰しかないのだろう、それがこのモイラ編で描かれた回答です。もー少し違う表現をするなら、TS世界の約20年前に描かれた結論が「ロボットの未来にはヒトの手による滅びが待つ」というものだったワケですな。と、ソレに対して。TS本編のラスト(レビューはコチラで主人公シグナルが見出したのが、「ロボットはヒトと共に手を取り合って生きる」という結論でした。作中経年で言って20年の時を経て、かつての主人公カルマが見たロボットの未来を新たな主人公シグナルが希望あるモノへと昇華させていってるという、そういう対比になっているワケです。なんとゆーか、こーゆう対比が生じるトコロにまた、カルマ&正信とシグナル&信彦の違いが浮き彫りになっている感もありますが…かつての暗澹あんたんな回答=ヒトとロボットは結局は共には在れない、というモノを、新しい時代で光ある回答=ヒトとロボットは共に生きる、というモノに変化させていったトコロには、どこか変わりゆく未来のカタチとでもいった事柄を感じさせてくれます。まぁ本作の設定世界からして未来の時代なんですが(笑)、その中で移り過ぎる時代の流れを感じさせてくれるってのも、なにかSFのロマンがありますなー。作品刊行としては、いちおうこのモイラ編の方が本編に先駆けて連載完了したシロモノなんですよねー、そう読み解くとこの変容って狙った作劇なのかなぁ、大清水さん。

お次は雪の女王編。シリーズ全体から言うと、小説版3巻(レビューはコチラに引き続く物語になるのかね。こちらはコチラで、ORACLEコンビを主役にした短編ってコトで、モイラ編みたいなテーマ性とかは別に無いストーリーです。ま、どのみち4話程度の内容だしなー。でもその代わりと言っちゃあ難ですが、ORACLE本体の障壁管理だとかオラトリオに唯一灼かれない存在としてのオラクルなどなど、サイバーパンク的なギミックが全編通して多数盛り込まれており、その辺でTS本編にはあまり無かった魅力(読みごたえ?)がふくらんだ内容にはなっています。本編だと、この辺のSF考証的な部分って意図的に抜きにしてたからねー、そーゆう点からは外伝としての"らしさ"もあって実に面白いです。まぁそう言いつつ読んでてずっと気になってんのが、ORACLEツアーガイドのおねーさんはどこまで"事情"を知らされた人間なのだろーか、とかそんなコトばっかりなんですが(笑) いやぁ気になる、やっぱ必要最低限の事しか教わってないんだろーか。オラトリオの正体なんて部外者には絶対明かせないからなぁ、チョットした関係者ぐらいで説明されてんのかなぁ…



▽自薦名場面 ― 94ページ

 ――アア…

    眩しいな…

       これが――――光か

モイラ編最終話前より、ギアの最期のシーン。散々な騒動を引き起こした暴走ロボットが本当に求めていたもの、それは本物の"外"の世界、太陽の輝きたったソレだけだった。電脳空間という檻に閉じこめられ続けた鬱屈から生じた彼の欲望は、何も人間への復讐といった大仰なことではなく、ただ「光が見たい」というささいな願い。コードの最期の手向けにしても、自身が電脳空間にしか居場所を持たない=現実世界には実在できない者として、ギアに一種の共感を得たところがあったんだろうな。ただの脅威だったギアが滅びの前に見せた儚い姿…彼の壊れた魂は最期に救われたのだろうか…?



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2008/02/28