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感想・小説編。

小説ツインシグナルVol.3 囚われの賢者
Cybimind

原作:大清水さち 著者:北条風奈

出版元:エニックス


 はじめに夜があった。
 それから身を切る氷の冷たさ、無音の空間、そして限界――何故か外には出られない。
外があると知っているのに。そここそ自分の居場所のはずだ。
 自由に駆ける力があるのに。
 それは記憶の創めにある。
 意識が生まれるその瞬間に――


読書好きならいちどは訊ねられる、あるいは目にしたことがあるだろう質問。「もし無人島に1冊だけ本を持って行けるとしたら、何を選びますか?」 私がその問いを受けたなら、小一時間ほどアタマを悩ませた後、きっと最後にこの小説を選ぶことでしょう。自分の過去人生における最高の小説作品、それこそがこの本、小説ツインシグナルVol.3・囚われの賢者/Cybimindなのです。

私にとってのベストオブベストコミックスである『ツインシグナル』、そのノベライズ作品とゆーことで、小説TSシリーズはそれこそ第1巻を購入した直後から、原作共々いま現在でも長らく愛読し続けていますけれど。そんな本作への愛着が一気に爆発したのがこの巻。もうホント、このシリーズに限らずとも他にもそれなりの数量、本を読んできたつもりではありますが、本作を超えて好きになれた作品にはまだ巡り会えておりません。そのくらいに好き。もう本当に大好き。本作で描かれるテーマも好きだし、センス溢れる文体自体がもうたまらないし、美麗な表紙イラストも最高だし、3重の掛詞になっている英題も素晴らしいし、果てには序幕から本編タイトルへと移行していくその構成、さらに加えるならダンテの『神曲』をモチーフとした各章題も好き。そして何より、今巻の主役として活躍する"彼"が、私は随一に大好きなのです。

とりあえず、私がどれだけ本作が好きなのかとゆー、その魅力について、各要素ごとにどっぷりと語っていきましょうか。つーか語らせろ。(本音)


 選択の自由はない。誰に言われることもなくオラトリオは知っていた。自分の前に道は
一つ――〈ORACLEオラクル〉の守護者ガーディアンとなること、そして一朝事あらば自分オラトリオは消える。
 〈ORACLE〉のために存在するのだ。
 この身も心も。

まずは、本作のテーマ。この3巻、コミックス本編とは大きく時間軸をズラした、小説シリーズでも明確な外伝作として、ストーリーを進めてるんですけれど。そうした中で本作が真に描いているモノはズバリ、「”生”とは何なのか/”生きていく”ためにはどうすればよいのか」とゆー、実に哲学的で、何より最もSFらしいテーマだったりします。

 守護者ガーディアンとして造られたのに、それを不要とする最大の手段も俺に持たせた。必要な
のは〈ORACLE〉で、オラトリオじゃない。〈ORACLE〉さえ無事ならば、俺などいなくて
構わない。だから俺は消えられる。
 だったらどうして、こう造った?
 じゃなくてもいいじゃないか!

本作はシリーズ外伝として、〈ORACLEオラクル〉というシステムのため・オラクルの守護のために造られたロボットである、A-O・ORATORIOオラトリオを主人公に物語は描かれていきます。彼は守護者として求め造られた存在、のハズなのに、その実では〈ORACLE〉の代替品スペアとして用意されたロボットでもある。必要だから生み出された、なのにその真逆の価値すらも持つ、己という存在。その強烈なジレンマとストレスとで、生まれたばかりの彼は悩み苦しみ続けます。

 誰もいない。
 誰も知らない。俺がここにいることを。
 無限の闇を一人で守る。
 これからずっと――壊れるまで。

しかも、彼の苦しみはそれだけではない。このガーディアンという立場は、あくまでも己にだけ降りかかる使命。世界の誰と分かちあうこともできはしない、自分だけが抱え・歩んでいくほかに無いという、あまりにも重いその枷。ロボットとして生ある限り、その苦しみはいつまでも彼にのしかかる。

 しかし、人間ひとはなんと思っているのか。
 閉じこめられて、こき使われる神託の主を――心縛られ、戦いつづける守護者ガーディアンを。
 人格パーソナルなどに価値はない。
 価値があるのは情報なのだ。価値ある情報を人間のために整理する。〈ORACLE〉と
いうシステムなのだ。
 必要なのは〈ORACLE〉で、それ以外の何ものでもない。
 おためごかしだ。所詮、便利なアイテムでしかないものを。
 機械のためなら機械を造れば良かっただろうに。

コレはまぁ、私なりの人生観なんですけどね。人間、「生きている理由」はあるとしても、「生まれてきた意味」なんて有りはしないんですよ。「なんで自分は生まれてきたんだろう」とかって、ま〜良くある悩みですけれど、本当はそんな意味なんかあるワケが無い。残酷だけど事実として、生まれてきた意味なんて、人間には無いんです。本当に。

 「大丈夫だよ。あいつはしぶとい」
 「でも」
 「誰でも彼でも、君のようにはなれないよ。でもね、道は一つじゃない」
 傾いてきた陽の下で、窓辺の正信まさのぶが振り向いた。
 「――こういうことは他人が口を挟んでもダメなんだ。僕だったら、誰とも話をしたくない。
そういうもんじゃない?」

でもロボットは違います。(もちろん架空の存在ではあるけれど、)彼らは求められて造り出される存在で、それゆえに「生まれてきた意味」を持ち、同時に「生き続ける理由」=「生まれ持った使命」にも縛られる。だったらそんな、逃れたくても決して逃れられない”意味”を持つのなら、それに対してどうすれば良いのだろう? 本作ではそんな、「生きるということ」を、オラトリオというキャラ/生まれた直後から強大な使命を持ったキャラを通して描いている、そう感じます。

 「俺はな、ここへ来てから諦めたよ。暑いところはどうしたって暑いんだ。頭を使って
切り抜けるしかないってな」

本作で示される、その命題に対する答え。それはあまりにもシンプルで、それゆえたったひとつの解答。つまり、生き方は自分で選び取るしかない、という事。絶対の重圧があるなら、それから逃げるのではなく、どうやって向き合うのかを選ぶ他には無いワケです。この答え、ロボットを通して描き出されたモノですが、ヒトの人生についての解のひとつでもあるのではないかと、私は思います。

 みのるは今も忘れない。
 生きているのは凄いことだ。生きているから全てがある。死んでしまったら何も出来ない。
 白く明るい研究室で、いつもいつも思っている。ここで両親が頑張っていたことを。

”生きている”のなら、”生き続ける”しかない。苦しい現実があって、そこから逃げられないのなら、だったらそれは結局、自分自身で考えて立ち向かうしかない。”生きる”とは、つまりそーゆうモンなんじゃーないか、と私は思います。そんな、サラリと重たいテーマを内包しながら、あくまでも十二分にエンターテイメントたっぷりに読ませてくれる作品として、まず私は本作を評価してるんですねー。


 オラトリオの全身がヴァイオレットの光を放つ。灼きつくオーラは姿を換えて、四筋の
はしる雷となり、空間ネットの彼方で鳴り響く。それは聴覚を打つ調和音ハルモニア……うなるバリトン、
突 き刺すソプラノ、全てが仮想の生きた声ヴァイタル・ヴォイス――受け入れた者の生命を奪う天の裁きジャッジメント

そして次。それはやはり、このセンスに富んだ数多くの描写ですね。北条さんの文章センスには、それこそシリーズ1巻からすでにヤラレていた私ですが。この3巻は、その素晴らしいまでのセンスが一気に爆発して盛り込まれています。

 オラクルは肘をついたまま両手を組み合わせた。そのまま額を手につける。
 神託オラクルと呼ばれる私に、こうすることが許されるなら、私は知りたい。
 どうしたら救える?
 私の半身――オラトリオを。

とにかくもう、カッコイイ文章、イカす描写のオンパレード。数多のSF作品を読んできたとゆー著者ならではの、そしてなにより、著者独自の感性によるサイバーパンク描写の数々が、終始オレを惹きつけっぱなし。SFはおろか、サイバーパンクだってそんな数読んだこと無いですけれど、それでも本作の文章センスは超一級。もー素晴らしいとしか言い様が無い。

 「それは非常な問題だ。なあ、オラトリオ。お前も社会そとに出れば分かるだろうが、頭の良
い人がいい人だとは限らない。反対にいい判断を下せることが頭の良さとは決めつけられ
ない。どれが正しいことなのか、はっきり決めることは出来ない。ただ、これだけははっ きり
しとる。力のありすぎる言葉は受ける者にも力が必要だ」

いやマジで、本作は何回読んでも飽きませんねー。いつもレビューに取りかかる前には、事前にいちど本を再読してから執筆に挑むワケですが、今回なんて3回ぐらい読み返しちゃってますから。それでも飽きない。まだ楽しめる。我ながら、バカみたいな回数読み込んでますよ(笑)

 「忘れないでね。こちらの人にとっては、貴方が〈ORACLE〉なのよ。〈ORACLE〉
を扱う科学者にとっては、貴方が天上よりの使者。
 貴方と〈ORACLE〉は等しい重さを持っているのよ」
 お前は『歩く図書館』なのだ。
 遥か高みの蒼穹そうきゅうが、巨人の身体を押しつぶす。天を支える大地の化身は天の重みで動け
ない。誰より強いはずなのに――

本作を初めて書店で買ってから、現時点でかれこれ8年以上過ぎてるワケですけど、相変わらずのこのハマりよう。電脳空間での激しいシーンに通常の会話、情景描写も全部ひっくるめて、抜群のセンスに溢れまくっています。この巻はシリーズとして、完全に外伝扱いで全体も構成されてるんですが、それが十二分に功を奏しているのでしょーかねぇ。

 両手を鋭く振りかざすと、大音響の聖譚曲オラトリオが漆黒の天を震わせた。
 八つの声ヴァイタル・ヴォイスが、今、歌う。
 コロラトゥーラの栄光グロリアを。バリトンにこもる聖呪の力メレディツィオーネを。
 オラトリオが踏んだ基面プレーンの下から百の光の刃が立って、うねる緑を切り裂いた。
 軽やかなステップの一つ一つが仕掛けた刃が同時に光と光を結んで、輝く天の怒りと換わる。
 地よりあらわれ天を撃つ、真の雷撃、紫の光螺旋ライトニング

とにかくこの巻の文章は最高。余談ながら、かつて私が運営していた違うWEBサイトでは、本作の描写手法を手本にオリジナルの小説をいくつか書いたりも、実はしてました(大笑) イヤもう尊敬っぷりが高じすぎて。書いちゃってたのよ。己もわきまえず。そんなこんなの過去の出来事も、今やもう良い思い出ですね〜。(当然、そんな無謀な試みなど、文才の無さにもろくも崩れ去ったりしたことも、やはり今や思い出(大苦笑)


 オラトリオは無言のまま、一礼した。コートを裾引き膝をかがめて、囚われ傅く賢者の
ごとく。それから毅然きぜん
ときびすを返した。
 今度は誰も呼び止めなかった。

そして最後に。本作が好きな、実質上の最大の理由。それは私が誰よりもオラトリオという「キャラクター」のことが好きだからです。……いや、好きってのとは若干違いますね。より正しく言えば、オラトリオという存在は、私にとって「男」としての理想像なんですよ。

 神にかしづく/神に成る→等しい重さを持っているのよ。
 受け取るがいい。真の名オラトリオを。その時こそ、神託オラクルは降る。万人の上に。
 何が悪い?
 それで。
 何が悪い!!

本当に、ウソ偽り無く、伊達酔狂抜きで、オラトリオのような男になりたいと、そう思っています。マンガで最初に見た頃から数えると、かれこれもう10年以上になるのでしょーけど…それからずいぶんと歳食ってきた現在でさえ、マジで彼みたいになりたいと思ってる自分がいます。

 「俺はね、侵入者ハッカーと戦うのが仕事です。オラクルが生き残ればそれでいい。オラトリオが死んでも、
本当は誰も困らないんですよ」
 コードの瞳が雷の激しさでオラトリオを射る。オラトリオは痛みを知らない無関心さで受けて立つ。
オラクルだけが蒼白に腰を下ろした。

この作品に限らずとも、本当に多種多様な創作物上のキャラクターってのを、自分も見てきたつもりですが。それでもやっぱり、「こうなりたい」とまで思ったキャラってのは、彼の他には未だ巡り会っておりません。外面の上でも、内面的にも、本当に彼が「男」としての目標なんですよねー。だから私は、彼が主役として大いに活躍する本作が、単純な部分でも好きなのです。

 「ばあか。俺はお前を護るんだよ。俺が自分でそう決めた。お前にだって邪魔させない」

かれこれ私も、四半世紀以上を生きてきましたが、オラトリオのようになるには、彼のような”生き方”になれるにはまだ、正直いくつも足りないモノがあると感じています。これから先の人生で、本当にそうなれるかどうか…それはひとえに自分自身の努力次第なんでしょーけど。それでもやはり、いつかは彼の”在る場所”に、自分の力で立ってみたい。その目標だけは、自分にとっての本当です。や、ハタから聞いてりゃ、まーバカみたいな目標像でしょうけどねー(笑)

 「たまにはいいだろ。子供が成長して帰ってくるのを待つってのも」
 「……なんで、俺とお前の共同責任なのか、説明が欲しいがなあ」
 「ああ……ははは」

またさらに、オラトリオに限らなくても、本作には魅力的なキャラがそろっている。モチロンこれら登場人物は、原作コミックス=原作者の大清水さんあってこその存在なんですが。マンガよりも人物の心理を描写しやすい小説という形態で、その魅力を十二分に描ききっている北条さんの文章力もまた、確実なものではないかと思うのですよ。


そんなこんなで。私がいかに本作が、小説TS3巻・囚われの賢者/Cybimind が好きなのかとゆーコトを、長ったらしい文章やらうざったい文字装飾やらごっちゃごちゃに織り交ぜて、心ゆくまで語らせてもらいましたとさ(←完了系) 自己満足ぶっちぎりのテキストに、かくも長々お付き合いいただき、改めて読者様には謝辞を。

アナタには、これまで読んできた本の中で、「これぞ!」と言える作品があるでしょうか? 私にはあります。いつかそのうち、これを超える作品に出会うこともあるのかもしれませんが……それまではまだ、この小説こそが人生最高・最良の1冊です。


 無敵を誇った〈暗黒母神カーリー〉が消滅した。ひとしきり英雄探しが続いたが、誰も突きとめ
られないままだ。代わりに噂がまことしやかに囁かれている。
 〈ORACLE〉に無敵の影の守護者ガーディアンがいる、と――



▽自薦名場面

この本からひとつだけ選ぶなんてオレにできるワケねーだろ!!(←え、逆ギレ?!) 本音を言えばもう、それこそ堂々と「この本の全て。」と言いきってしまいたいトコですが。それはさすがにアレなので、レビュー本文の合間に挿入させた各シーンを、本作の自薦名場面としてかように列挙させてもらいます。や、ホントはコレでも絞った方なんだけどさ(笑)



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2006/02/05