感想・小説編。
小説ツインシグナルVol.3 囚われの賢者
Cybimind
原作:大清水さち 著者:北条風奈
出版元:エニックス
創めに夜があった。
私にとってのベストオブベストコミックスである『ツインシグナル』、そのノベライズ作品とゆーことで、小説TSシリーズはそれこそ第1巻を購入した直後から、原作共々いま現在でも長らく愛読し続けていますけれど。そんな本作への愛着が一気に爆発したのがこの巻。もうホント、このシリーズに限らずとも他にもそれなりの数量、本を読んできたつもりではありますが、本作を超えて好きになれた作品にはまだ巡り会えておりません。そのくらいに好き。もう本当に大好き。本作で描かれるテーマも好きだし、センス溢れる文体自体がもうたまらないし、美麗な表紙イラストも最高だし、3重の掛詞になっている英題も素晴らしいし、果てには序幕から本編タイトルへと移行していくその構成、さらに加えるならダンテの『神曲』をモチーフとした各章題も好き。そして何より、今巻の主役として活躍する"彼"が、私は随一に大好きなのです。 とりあえず、私がどれだけ本作が好きなのかとゆー、その魅力について、各要素ごとにどっぷりと語っていきましょうか。つーか語らせろ。(本音)
まずは、本作のテーマ。この3巻、コミックス本編とは大きく時間軸をズラした、小説シリーズでも明確な外伝作として、ストーリーを進めてるんですけれど。そうした中で本作が真に描いているモノはズバリ、「”生”とは何なのか/”生きていく”ためにはどうすればよいのか」とゆー、実に哲学的で、何より最もSFらしいテーマだったりします。 守護者として造られたのに、それを不要とする最大の手段も俺に持たせた。必要な 本作はシリーズ外伝として、〈ORACLE〉というシステムのため・オラクルの守護のために造られたロボットである、A-O・ORATORIOを主人公に物語は描かれていきます。彼は守護者として求め造られた存在、のハズなのに、その実では〈ORACLE〉の代替品として用意されたロボットでもある。必要だから生み出された、なのにその真逆の価値すらも持つ、己という存在。その強烈なジレンマとストレスとで、生まれたばかりの彼は悩み苦しみ続けます。 誰もいない。
しかも、彼の苦しみはそれだけではない。このガーディアンという立場は、あくまでも己にだけ降りかかる使命。世界の誰と分かちあうこともできはしない、自分だけが抱え・歩んでいくほかに無いという、あまりにも重いその枷。ロボットとして生ある限り、その苦しみはいつまでも彼にのしかかる。 しかし、人間はなんと思っているのか。 コレはまぁ、私なりの人生観なんですけどね。人間、「生きている理由」はあるとしても、「生まれてきた意味」なんて有りはしないんですよ。「なんで自分は生まれてきたんだろう」とかって、ま〜良くある悩みですけれど、本当はそんな意味なんかあるワケが無い。残酷だけど事実として、生まれてきた意味なんて、人間には無いんです。本当に。 「大丈夫だよ。あいつはしぶとい」 でもロボットは違います。(もちろん架空の存在ではあるけれど、)彼らは求められて造り出される存在で、それゆえに「生まれてきた意味」を持ち、同時に「生き続ける理由」=「生まれ持った使命」にも縛られる。だったらそんな、逃れたくても決して逃れられない”意味”を持つのなら、それに対してどうすれば良いのだろう? 本作ではそんな、「生きるということ」を、オラトリオというキャラ/生まれた直後から強大な使命を持ったキャラを通して描いている、そう感じます。 「俺はな、ここへ来てから諦めたよ。暑いところはどうしたって暑いんだ。頭を使って 本作で示される、その命題に対する答え。それはあまりにもシンプルで、それゆえたったひとつの解答。つまり、生き方は自分で選び取るしかない、という事。絶対の重圧があるなら、それから逃げるのではなく、どうやって向き合うのかを選ぶ他には無いワケです。この答え、ロボットを通して描き出されたモノですが、ヒトの人生についての解のひとつでもあるのではないかと、私は思います。 みのるは今も忘れない。 ”生きている”のなら、”生き続ける”しかない。苦しい現実があって、そこから逃げられないのなら、だったらそれは結局、自分自身で考えて立ち向かうしかない。”生きる”とは、つまりそーゆうモンなんじゃーないか、と私は思います。そんな、サラリと重たいテーマを内包しながら、あくまでも十二分にエンターテイメントたっぷりに読ませてくれる作品として、まず私は本作を評価してるんですねー。
そして次。それはやはり、このセンスに富んだ数多くの描写ですね。北条さんの文章センスには、それこそシリーズ1巻からすでにヤラレていた私ですが。この3巻は、その素晴らしいまでのセンスが一気に爆発して盛り込まれています。 オラクルは肘をついたまま両手を組み合わせた。そのまま額を手につける。 とにかくもう、カッコイイ文章、イカす描写のオンパレード。数多のSF作品を読んできたとゆー著者ならではの、そしてなにより、著者独自の感性によるサイバーパンク描写の数々が、終始オレを惹きつけっぱなし。SFはおろか、サイバーパンクだってそんな数読んだこと無いですけれど、それでも本作の文章センスは超一級。もー素晴らしいとしか言い様が無い。 「それは非常な問題だ。なあ、オラトリオ。お前も社会に出れば分かるだろうが、頭の良
いやマジで、本作は何回読んでも飽きませんねー。いつもレビューに取りかかる前には、事前にいちど本を再読してから執筆に挑むワケですが、今回なんて3回ぐらい読み返しちゃってますから。それでも飽きない。まだ楽しめる。我ながら、バカみたいな回数読み込んでますよ(笑) 「忘れないでね。こちらの人にとっては、貴方が〈ORACLE〉なのよ。〈ORACLE〉 本作を初めて書店で買ってから、現時点でかれこれ8年以上過ぎてるワケですけど、相変わらずのこのハマりよう。電脳空間での激しいシーンに通常の会話、情景描写も全部ひっくるめて、抜群のセンスに溢れまくっています。この巻はシリーズとして、完全に外伝扱いで全体も構成されてるんですが、それが十二分に功を奏しているのでしょーかねぇ。 両手を鋭く振りかざすと、大音響の聖譚曲が漆黒の天を震わせた。 とにかくこの巻の文章は最高。余談ながら、かつて私が運営していた違うWEBサイトでは、本作の描写手法を手本にオリジナルの小説をいくつか書いたりも、実はしてました(大笑) イヤもう尊敬っぷりが高じすぎて。書いちゃってたのよ。己もわきまえず。そんなこんなの過去の出来事も、今やもう良い思い出ですね〜。(当然、そんな無謀な試みなど、文才の無さにもろくも崩れ去ったりしたことも、やはり今や思い出(大苦笑)
そして最後に。本作が好きな、実質上の最大の理由。それは私が誰よりもオラトリオという「キャラクター」のことが好きだからです。……いや、好きってのとは若干違いますね。より正しく言えば、オラトリオという存在は、私にとって「男」としての理想像なんですよ。 神に傅く/神に成る→等しい重さを持っているのよ。
本当に、ウソ偽り無く、伊達酔狂抜きで、オラトリオのような男になりたいと、そう思っています。マンガで最初に見た頃から数えると、かれこれもう10年以上になるのでしょーけど…それからずいぶんと歳食ってきた現在でさえ、マジで彼みたいになりたいと思ってる自分がいます。 「俺はね、侵入者と戦うのが仕事です。オラクルが生き残ればそれでいい。俺が死んでも、 この作品に限らずとも、本当に多種多様な創作物上のキャラクターってのを、自分も見てきたつもりですが。それでもやっぱり、「こうなりたい」とまで思ったキャラってのは、彼の他には未だ巡り会っておりません。外面の上でも、内面的にも、本当に彼が「男」としての目標なんですよねー。だから私は、彼が主役として大いに活躍する本作が、単純な部分でも好きなのです。 「ばあか。俺はお前を護るんだよ。俺が自分でそう決めた。お前にだって邪魔させない」 かれこれ私も、四半世紀以上を生きてきましたが、オラトリオのようになるには、彼のような”生き方”になれるにはまだ、正直いくつも足りないモノがあると感じています。これから先の人生で、本当にそうなれるかどうか…それはひとえに自分自身の努力次第なんでしょーけど。それでもやはり、いつかは彼の”在る場所”に、自分の力で立ってみたい。その目標だけは、自分にとっての本当です。や、ハタから聞いてりゃ、まーバカみたいな目標像でしょうけどねー(笑) 「たまにはいいだろ。子供が成長して帰ってくるのを待つってのも」 またさらに、オラトリオに限らなくても、本作には魅力的なキャラがそろっている。モチロンこれら登場人物は、原作コミックス=原作者の大清水さんあってこその存在なんですが。マンガよりも人物の心理を描写しやすい小説という形態で、その魅力を十二分に描ききっている北条さんの文章力もまた、確実なものではないかと思うのですよ。
アナタには、これまで読んできた本の中で、「これぞ!」と言える作品があるでしょうか? 私にはあります。いつかそのうち、これを超える作品に出会うこともあるのかもしれませんが……それまではまだ、この小説こそが人生最高・最良の1冊です。
この本からひとつだけ選ぶなんてオレにできるワケねーだろ!!(←え、逆ギレ?!) 本音を言えばもう、それこそ堂々と「この本の全て。」と言いきってしまいたいトコですが。それはさすがにアレなので、レビュー本文の合間に挿入させた各シーンを、本作の自薦名場面としてかように列挙させてもらいます。や、ホントはコレでも絞った方なんだけどさ(笑) |