感想・小説編。

小説ツインシグナルVol.8 電子の陽炎・下
The Alan Turing's Lover

原作:大清水さち 著者:北条風奈

出版元:エニックス


TSノベライズの第8巻。アトランダム本部で起きたエピソードの完結編。上巻ラストからそのまま続く流れで、下巻がスタートしておりますな。

さてさてまぁ、今回の物語でメインスポットが当たるキャラはオラトリオ、と加えてオラクルの両名、つまり作中で言う所の”ORACLEオラクル達”になるワケで。本シリーズの数ある登場キャラクター中でも一歩抜きんでて彼らが気に入ってる私としては、前回のレビューでも書いたとーりそれだけでもう満足しちゃってたりするんですけど。ただし本作、メインスポットが彼らに強く当たっているとゆーだけで、あくまでもTSというシリーズ作の主人公はシグナルその人だって根底の部分だけはズレずに物語が描かれている点が、原作コミックスに対しての配慮なんかも感じられて、好感が持てる部分だったりしますね。渦中の中心人物としてドラマを動かしていくメイン両名の姿を見るような位置に立たせ、その上でシグナル本人の気質、どこまでも真っ直ぐで”正しくないこと”を決して許さない強い正義感を描いてみせることで、より明確に本作主人公・シグナルの魅力を浮き彫りにしようとしている、とでもゆーか。人間だろうがロボットだろうがあらゆる面で区別はつけず、いかなる存在であろうと対等に接っし、だからこそ誰であろうとも悪や害を為すことを許さず、いつも”正しい目”で自分の前に立ち塞がる事態へと立ち向かう。今巻のクライマックスではとりわけ、彼の持つ正義感がどのようなモノなのか、ハッキリ描かれているように思いますねー。

てなワケで、キャラクターの魅力としては今回もまた存分に堪能できる内容になってるんですけど…シナリオ展開そのものについては、なんかビミョーに把握しずらいような面もあるんですよねー、今回。なんせ今回の”加害者”は「オラクルのストーカー」ですからね、いくら既刊で十二分に描かれてきているとはいえ、オラクル自身ってやっぱSF色の強いキャラであるワケだし、そーゆー不可思議な存在(?)である彼に恋い焦がれてしまったミス・アンダーソンって、彼女の心情を分かるには心理面と同時にSFについてもある程度以上の理解力がないと把握しづらいんじゃないかなー、ってそんな心配が。別にそんな難しく考えて読もうとしなくてもそりゃフツーに面白いんですけれど、なんとなくこの全体的な描写には奇妙なややこしさを覚えてしまいますな。なんせ基本的に”悪”でもないからなぁ、彼女って。そーした部分でもスッパリ分かりやすいってワケじゃないしさ。まぁ基本的には余計な心配なんですけど。



▽自薦名場面 ― 179〜180ページ

 「ちょっと、ちょっと! なんなのよっ、この人数は」

 クリスがきいーっと悲鳴をあげて居間を見回し数えだした。

 「邪魔するぞ」

 「にぎやかっていいわねえ」

 「うー、座る場所がないってば」

 「そこ開けてくれんか」

 「お前は立ってろ」

 「うっさいなあっ、パルス」

 「おっ嬢さーん、お茶くださいな♪」

 オラトリオがソファの真ん中からひらひらと手を振ると、クリスが腰を両手でパシッっと叩いて気合いを入れる。

 「はいはい、ただいまっ」

 教授に正信、みのる、信彦のいつものメンバーにプラスして、ラヴェンダーからオラトリオ、パルス、シグナルの『音井ブランズ』四姉弟が久しぶりに勢揃いした。これに助手を務めるクリスが入って総勢九人の大家族である。

音井ファミリー大集合の図。何ゆえコレが名場面なのかっつーと、確かにシーンとしては全然なんてコトのないひと幕なんだけど、誰が何をしゃべってるのかおよそ説明が無いにも関わらず発言者がハッキリ分かるとゆー、キャラの書き分けが驚くくらい明確に行われている点で、実に印象深いワケで。だから今回、末尾の段落は完全にオマケ。ちなみにこの場面、黙って居間に入ってきた人がひとりだけおります(笑)



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2007/01/31