感想・小説編。

小説ツインシグナルVol.7 電子の陽炎・上
The Alan Turing's Lover

原作:大清水さち 著者:北条風奈

出版元:エニックス


TSシリーズ番外ノベライズの7巻。コミックス本編との兼ね合いだと、13巻の直前ぐらいに入るエピソードってコトになるのかね。そんなこんなで上下巻構成の第2弾は、アトランダム本部で起こる物語を描いております。

とまぁ、シリーズが始まってから向こう、比較的TSノベライズではワールドワイドに展開される舞台でもって、シグナルたちが活躍する様をスケール大きめに描いてきましたけど。原作サイドでの展開状況もあって今回、シンガポールは頭脳集団シンクタンクアトランダムのみを舞台にストーリーは動いていくワケで。その点では今回の上下巻、チョットした冒険旅行的(?)な展開が楽しめた点もあるシリーズ既刊と比べ、スケールの広がり具合は抑えられ気味になってますねー。とは言え、その代わりに原作サイドでは何気に触れてるトコロが少なかった、信彦たちのシンガポールでの日常の様子や、各レギュラー陣がアトランダム本部でやっている仕事のナカミなどが色々と描かれてて、そこらへんで原作の補完的な部分が楽しめるってのもまぁあったり。特に若先生の新しい役職のコトなんて、設定としてはちゃんと決めてあるんだろーケド、原作では完全にノータッチだしなー。まぁこのへんは、原作は「シグナルを主人公とした物語」とゆー視点が常に明確にされてるせいで、反面どーしてもそーした描写が置き去りにせざるを得なくなってる部分が大きいんですけど。あぁそーか、そーゆー流れで見ると、この小説版ってホントに、より原作を楽しむための番外ストーリー集って意味合いが強いんだなー。あくまで番外編ではあるけど、コチラを読むことで世界設定やシリーズ全体のバックボーンなんかがより深く理解できるようになってる、とゆー。まさに私みたいなツインシグナルおたくのためにあるよーな作品ですな、この小説版は(大笑)

なんか、こんな書き方してると今巻があまり気に入ってないよーな感じがありますけど、そこはソレ、今回のスポットキャラがマイフェイバリット漫画キャラのオラトリオってだけでもう、面白くないワケがないってなモンでして、えぇ(真顔) そーゆー部分で読んでりゃまぁぶっちゃけ、個人的にはメッチャ楽しめるのは確かなんですけど。いったんその”フィルター”を外しといてフツーに読んでると、この上巻ではまだ大きな展開もさほど無く、コレといった見所が少なめだったりするのは正直なトコでもありまして。ま、ここらへんの不満は、巻末のラストページおよびあとがきであおるように描かれる、下巻への”引き”で解消するよーな部分もあるんですけどねー。イヤ実際、4〜5巻の時は物語にハッキリ区切りが入ってましたけど、今回のコレはスゲェ続きが気になる展開ではあると思います。

それに出版された当時って、この上下巻は月間発行でリリースされてたんだよなぁ。翌月にはもう下巻が読めるって、今になって振り返ったらだいぶムチャな話だよなー、マジで。ソレ抜きにしても、本シリーズはかなりのハイペースで刊行され続けてたしなぁ、今更なハナシだけど、大した作家だったよなー、北条さんって。ま、このへんの関心事は、作品レビューとしてはまるっきり的を外してる話題ではありますが。



▽自薦名場面 ― 133ページ

 クリスが静かに立ち止まった。

 「ねえ、パルス」

 「なんだ」

 振り返ると、小さなロボット工学者は真剣な眼差しでパルスを見上げていた。

 「いつかあたしが人間形態ヒューマンフォームロボットを造ったら、その子と対戦してくれる?」

 クリスの茶色の眼差しが、不思議と誰かを思わせる。

 それは正信であったり、教授であったり、あるいは彼女の姉、コンスタンス・サイン=キム博士であったり。

 初めて会ったとき、なかった何かが彼女の中には芽生えていた。

 「約束しよう」

 パルスは静かに笑って請け負った。

南国の夜道で、いつかくる未来を約束する若き工学者の少女と、その目指す”先”であるロボットの青年。原作含めて全体的にどーにも活躍の場が薄れ気味になってきてるクリスだけど(苦笑)、こーして彼女の成長も折に触れて組み上げてくれるのが、この小説版を気に入ってる要因のひとつでもあり。強いロボットを造るというクリスの夢は、いつかきっと越えたいと心から思えるパルスという存在を前にして、以前よりもずっと強く大きく育っていった。彼女の中に静かに宿る未来への夢と希望の姿が、この数行でありありと描かれていて、それがなんとも印象深くあるシーンです。



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2007/01/18