感想・小説編。

小説スパイラル 〜推理の絆〜 エリアス・ザウエルの人喰いピアノ

著者:城平京

出版元:エニックス


スパイラル番外ノベルの3巻目。今回の表題作は、時系列的にはどのへんに入り込むエピソードになるんだろ。カノン登場の直前くらいに当たるのかね? 外伝からは、通常構成の前後編モノ2つに1話完結のヤツを含めた3作を収録。

とゆーコトで今巻は、書き下ろしの表題作とWEBで掲載していた外伝との収録比率が1:3となっており、ソコの点でWEB版もチェックしていた私みたいな読者としては、さすがに不満を感じる所が少なくない構成になってるのが、なんとも残念と言いましょーか。改めて紙媒体で読めるって手軽さはそりゃイイんですけど、でもやっぱ外伝シリーズの方はすでに1回読んだことのある作品ですからねー、書き下ろしこそを堪能したいと思ってる読者の期待には応えていないってーのは、まぁ正直なトコでしょう。だって全体の1/4なんだもんなー、そりゃ少ないって、ねぇ(苦笑)

そんなワケで、ボリューム的にもやはり食い足りなさが目に付くのが、コレまた残念な表題作。前回・2巻にはさすがに及ばない(てか、及んでも問題ありそうだが(笑)ものの、「人喰いピアノ」を始めとした実にアヤシげなガジェットによる”怪奇とロマンあふれる現代ミステリ”を描く…と見せかけて、張り巡らされた伏線によるホワイダニットを解き明かす推理の妙、登場人物の心理的問題により起こされた事件の真相などは、やはり過去シリーズ同様の城平さんらしいミステリ劇があって、それなりに面白いです。です、けど…どーしても既存2冊と比べるとイマイチな感は否めないんですよねー。う〜ん、ページ数が足りないからかなぁ、やっぱし。まぁいちおう、端々の描写やセリフには、この後に続くコミックス本編の展開に関わる伏線というか、作中の言葉を借りれば”予言”とでも言うべきメッセージがいくつか入れこまれていて、その点ではシリーズファンとして楽しめる部分が多いんですけど。でもな〜、コレもしょせんはオマケですしねー、書き下ろし本編でこそ充分楽しませてほしかったのが本音だなぁ。

だからまぁ、今巻はすっかり外伝3作の方が本体ですな。とりわけ前後編形体の2作は、謎・伏線・ヒントの要素がキチンと提示されて、それ以外の展開・描写もフツーに楽しめる、オーソドックスに面白い短編ミステリとなってるかと思います。つってもまぁ、この巻はやはりギリギリ合格点未満ってのが正直なトコですかね。合格80点として、75点くらいかなー。



▽自薦名場面 ― 275〜276ページ

 「羽丘はねおか、私がいない間いったい何を話してたんだ?」

 (中略)

 「警部が神様だった頃の話ですよ。学生時代はよくおもてになったそうで」

 「おお、もてまくったぞ。愛してくれなきゃ死んでやるって脅されたのも二度や三度じゃない。ピアニストとして世界を回ってたから十カ国以上の老若男女から告白されたぞ」

 『男』は余計だろ。

 「さぞ楽しかったでしょう?」

 「そうでもないさ。結局私はひとりだったんだから」

 あたしはコメントを控えた。

 鳴海は眼精疲労をやわらげるみたいに目元をもみながら続ける。

 「暴力的でこうるさくて油性マジックで顔に落書きするような奴でも、誰か隣にいた方が楽しいさ」

『神様』と呼ばれた男・鳴海清隆のセリフ。表題本編でも良いシーンはいくつかあるけど、コッチの方が気に入ってるので外伝側から選出。たとえ自分の周囲に多数の人間が集まってこようとも、その誰もが本当に自分を”みて”くれていないのなら、それは独りきりでいるのと何も変わらない、むしろ周囲に他者がいるからこそ、周囲が”他人”でしかないその状況は実際に独りでいるよりもツラいかもしれない。当時の孤独に比べれば今の喧しくて騒がしい日々の方がずっと良い、『神様』と称された鳴海・兄の滅多に明かさない本音が垣間見えるこの場面には、彼の本当の姿が描かれていて、ソコが私は気に入ってます。



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2007/01/08