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感想・小説編。

小説スパイラル 〜推理の絆〜 鋼鉄番長の密室

著者:城平京

出版元:エニックス


スパイラルの番外編ノベル第2巻。物語全体では、5巻の後半あたりに挿入される時間軸のお話。外伝・小日向くるみの挑戦は、『殺人ロボの恐怖』の1話のみ収録。…なんか知らんが、どっちのサブタイも奇っ怪なインパクトを放つ題名だな(笑)

てなワケで本作、「鋼鉄」で「番長」で「密室」とゆーなんかの悪い冗談みたいにスッ飛んだ副題を冠せられた作品なのですけど。それでもこれまでに読んだミステリ小説のなかで、本作こそが最も気に入っている作品だったりします。そもそも当方、言うほどミステリ作品をたしなんじゃぁいませんが。そんな中でも、コレがイチバン好きなのですよ、うん。「鋼鉄」で「番長」で「密室」だけどな。

本作の何が好きなのか。それは、前巻から引き続く軽妙な文章・表現がまず好みだし、かつての大番長時代を描いた架空歴史ものとしての側面も気に入ってるし、「つじつまが合う3つの推理」という解答編の展開も素晴らしいし、本作のゲストヒロイン・牧野千景まきの ちかげとの出会いと別れまでを描いたボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーも実に良い。スパイラルのノベライズだから、とゆーのとも別に、本作自体が持つ各要素が実に自分好みであり、何よりひとつのミステリ小説として存分な面白さを持っているからこそ、私は本作を高く評価しているワケです。

では、各要素を分解していきますか。本作は、『番長の王国』に記述された熱い番長時代を背景にした、一種の架空歴史もの(モチロン、作中世界ではあくまでも番長時代は史実なのだが(笑)の側面を持ってまして。その歴史の物語、鋼鉄番長・ピストル番長・魔法番長ら3人の大番長を筆頭として描かれる番長史が、あまりにもバカバカしすぎるように見せておいて、何気に目を惹き面白かったりする。番長という英雄と、彼らに惹かれ付き従う学生達、それらが時代のうねりの中でやがて全国高校を巻きこむほどにふくれあがり、結果ひとつの「悲劇」によって終焉を迎えるまでの、一連の興亡の物語。いやホント、作中の歩のツッコミじゃないけど、高校生同士のケンカ話のクセにシッカリした歴史なのですよ。別の本で作者当人が、「コレは良くも悪くも自分の趣味が強く出た作品です」と語ってますが、ソレもあって私も好きなのかもしれませんねー。

そして次に、ミステリとしての魅力。45年前の事件の真実を明らかにするため、歩が用意したものは、それぞれまったく異なる、だけど全て筋が通って理論的に正しい、それでも過去の出来事だからこそ真実は不確かだという、3つの解決。これら3つの推理内容が、作中の情報を集めれば確かにいずれもが納得のいく推理だ、ってのがまずスゴいんですけど。とりわけ3つめ、つまりは真実の解答が、途中々々の伏線のばらまき方とその収束のさせ方とが、実に見事なほどのハマリ具合でして。ミステリ作として重要である、謎の存在・ヒントの提示・充分に納得しうる解答、とゆー各要素のバランスが、本作では本当に良く組み上げられてると思います。45年前の密室が開かれたとき、そのあと何が残るのか、何も残らないのか、それとも。

最後、基本のストーリーラインの部分。本作のストーリー展開は、ゲストヒロインである千景と歩がたまたま巡り会って、彼女の抱える(番長の物語絡みの)問題に歩が取り組むことになり、解き明かされた真実を経て互いの関わり合いも終わっていくという、ある種のボーイ・ミーツ・ガールとしての側面を持ってるワケでして。その物語の内容が面白いってのは確かですが、中でも特にエンディングは最高の一言。ひとつの、少年と少女の出会いと別れまでを描く中の、そのラストシーンの清々しさは、自分が読んだ・観た多数の物語の中でもトップクラスなほどです。紆余曲折を経たあとで迎えるあの終わり方は、本当に素敵な結末。これがあるからこそ、私もこれほどまでに本作を気に入っているのかもしれませんね。

バレエに番長に密室。奇妙なキーワードと、それ以上に珍妙な出会いを果たした2人がたどり着く、綺麗なまでの微笑みで締めくくられるラスト。本作がたどる展開と、巧みな伏線の上に成り立つ推理、そして到達する最高のエンディング。改めて本作、本当に面白いミステリ小説だと思いますねー。



▽自薦名場面 ― 215〜216ページ

 「お別れの前に最後、あなたのピアノで踊りたいわ。いいでしょう?」

 早朝のバレリーナは少し照れ臭そうで、少し嬉しそうだった。

 歩はちょっと驚いたものの、すぐそれも悪くないと思う。

 「わかった。曲は何がいい?」

 「ボレロみたいなのを」

 「『みたいなの』ってなんだよ」

 「へぼピアニストにちゃんとした演奏は期待しないわよ」

 くすりと笑う千景。

 なるほど、もっともだ。歩は肩の力を抜き、指の配置を変えた。

 「じゃあ微力を尽くして『みたいなの』を弾かせてもらうよ」

 たった二人しかいない朝の第二体育館にピアノの音色が響く。同時に千景の爪先が床を跳ねた。いくつもあるガラス窓から四角形に光が注ぎ込み、体育館の空気を輝かせている。音はその中を渡り、千景の体はその中を踊る。

 覚めて見る夢とはこのことかもしれない。歩は苦笑して思い、鍵盤の上で指を動かし続けた。

つーワケで、名場面はラストシーンの一節をまるごと選出。このあとの最後のやりとりとどっち取るか、実はかなり迷った。ずいぶん長い抜粋だけど、ここは切っちゃったらシーンの叙情感が失せちまうんだよねー。互いの間の穏やかな空気と、柔らかなボレロのメロディ、優雅なまでのバレエのステップ、それらの光景が思わせる「覚めて見る夢」のようなひととき。本当に心から、素敵で綺麗な最高のラストシーンだと思います。



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2006/04/18