感想・小説編。

小説スパイラル 〜推理の絆〜 ソードマスターの犯罪

著者:城平京

出版元:エニックス

もともと原作者が小説家なんだから、ある意味じゃこの小説版の方が「正式」なのかもしれなー、ってな風にも思ってしまったり。つーか、そういう形式のノベライズ作品って、実はかなりめずらしいのかも? ともかくも、良い意味でシリーズ本編の番外編的な位置づけにある小説版スパイラル、レビュー参りましょう。

本作の魅力は、上にもすでに書いてはいますが、大まかに分けてふたつ。コミックスのシリーズ本編は、ブレードチルドレンにまつわる数多くの謎と対決を描いて進む無いようなワケですが。この小説版は、冒頭に述べた通り「番外編的な位置づけ」がとても強く押し出されており、つまりは運命だなんだといったシリーズ中の謎・伏線とは無関係に、歩とひよのが物語の中で動き回る様子を楽しめるワケです。コレが小説版の魅力のひとつ。イヤまぁ小説だから”動いてる絵”なんざ一個も無いけどさ。そしてもうひとつの魅力はズバリ、原作者自らの執筆による小説版、という点。歩とひよの掛け合い(漫才(笑)が、コミックス版のソレとまったく同じままで描写されています。このメイン2人に限らずとも、小説版オリジナルで出てくるゲストキャラなどもまた、各ストーリーの中核を担う魅力あるキャラクターとして、そして同時にコミックス本編で出てきたとしても違和感の無いような人物像として描かれ登場してくる、と。やはりこのへんは、番外編と言えども筆者(原作者?)の取っている、同じ『スパイラル』とゆー作品世界の中の出来事として描こうという姿勢が見て取れますねー。

ソレではまた、『スパイラル』とゆーコミックス本編とは無関係に、本作のみを読み解くと。これはコレでまた、ひとつの小説としてシッカリと”ミステリしてる”面白い作品なワケです。コレがまぁ、言ってみりゃみっつめの魅力かね? 本編ではブレードチルドレンとの関わりの中で繰り広げられる「推理の物語」がメインになってるせいで、謎があって・犯人がいて・探偵役がトリックを見破り・事件を解決に導く、とゆー「ミステリの基本」ができなくなってるんですよね。まぁ逆に言えばソレこそが本編の魅力なんですけど、でも逆に、この小説版ではその「基本」にのっとったミステリ物語、歩がひとつの事件に自らの知力・知略で挑む様を、存分に楽しめる。とりわけ1巻の”キモ”は、剣道の達人の太刀筋を推理でもって見破る、というこの巻メインの見せ場。希代のソードマスター・黒峰くろみねキリコの剣を、歩が推理で打ち破り、今巻のゲストヒロイン・桜崎緋芽子さくらざき ひめこの身に降りかかった問題を解決してみせる。推理で戦いを制する、とゆー、本編にも通ずる面白さが描かれたこの場面は、やはり見逃せないワンシーンでしょう。

それら表題作とは別に、本編で名前だけ出てくる鳴海清隆なるみ きよたかが登場する、外伝シリーズも2話収録。これはコレで、別個のミステリ小説として気軽に、それでいてキチンと練られたトリックが出てくる問題編とその謎を解き明かしていく解決編で描かれ、楽しく読める「もうひとつ番外編」となってます。こっちサイドではやはり、第2話の「ワンダフルハート」が必見の内容。提示されてる謎そのものありきたりなんですが…犯人の動機、コレに隠された心理描写の妙ときたら! ミステリを描く上で心理描写に大きく重きを置く筆者の作風とその魅力が、惜しげもなく披露されています。どう考えても動機が見つからない、心臓にナイフを突き立てたその理由、そこに隠された犯人の深いココロの問題。短編ながら、とても面白い物語のひとつです。



▽自薦名場面 ― 155ページ

 「故に、右胴だ」

最終章、歩がキリコの剣を破った推理を語る、その最後のセリフ。そこに至るまでに集まった数多くの情報、その上で読み出しうる眼前の相手の心理。極限とも言うべき緊張と恐怖の中でも、決して自らの思考を休ませずゆるませず、そうして導き出したたったひとつの”答え”こそが右胴。実際には長々としたセリフでその推理は語られていますが、やはりここは、最後のシメのセリフにこめられたシンプルな格好良さを推したいトコロですね。



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2005/10/16