感想・小説編。

カルシファード緋炎伝3 熱き銀の誓い

著者:友野詳

出版元:角川スニーカー文庫


カルシファードの第2シリーズ3巻目。第1シリーズと同様に、コチラも全4巻で完結することが、あとがきを読むまでも無く明らかだったワケですが。起承転結の、まさに「転」に相応しく、物語が一気に”転がって”いきます。

てなワケで、この巻で主役張るのは、(物語のカギを握るという意味では)実質的なヒロイン(?)であるナギ・カイリ。カイリの出生に絡んだ伏線が一挙に明かされ、次なるシリーズ最終巻へと引き続いていくまでを描いているのが、3巻の内容です。そしてその、カイリ自身の問題を解決の方向へ持って行くと同時に、白狼党の面々もまた徐々にその関係を変化させていっているのを描いている、とゆーのもこの巻の中身なワケでして。強い絆で結びつき、これまで立ちふさがってきた数多くの敵や問題にも、その結束を持って立ち向かっていった彼ら。だけれども、良くも悪くも今まで通りでずっと居られるワケでも無い、変わらないモノも確かにあるけれど、変わらぬそのままでいることが彼らにとって最善・最良ではないのではないか。あとがきで友野さん自身がそう触れている通り、そんな”変化”を経過して、起承転結の「結」となる最終巻へと物語は流れていく。…まぁなんつーのか、これまでに描かれてきた白狼党の絆を振り返るとやはり、色々と寂しくもあり、残念な気持ちもやっぱりあるんだよなー。なかでも、エジムの去就については特に、そんな感じです。今巻ラストの締めは、そりゃあ彼自身にとって”必要”なことだったとは言え、やはりエジムひとりが離れていくことになってしまったのは、ある種の口惜しさを感じずにはいられなかったり。いつもはそんな、こーゆー風にストーリーに難を感じることって、滅多に無いんですけどねぇ。心情的に決して前向きとは言い難い状況で離れることになっちまったから、なのかなー。う〜ん。

ま、そんな感じの重めな感想はワキに置いといて。今回最高の見所はやはり、物語のラストで繰り広げられた、カイリ 対 白斬侠はくざんきょうライゾ・セイワの一騎打ちにこそありましょう! 激しい剣戟でなければ必殺の秘技の応酬があるワケでもない、ただただ静けさのみが場を支配する中で対峙する、2人の剣の達人。彼らが打ち交わすのはたった一撃、一瞬一度の奥義のみ。だがしかし、そこに込められたものは、その頂を染めゆく夕の暁よりも強く輝く、一心に研ぎ澄まされた強き想い! 青嵐記第4巻にあったリョウヤ対ダンジェイの対決、ぶつかり合う刃の音すら聞こえてきそうだった、圧倒的なまでの殺陣を描いたとはまるで正反対。あくまでも静かな一瞬の剣のやりとり、ソレのみを描いた、まさに”静”の殺陣の極致と言うべきこの場面! アチラでは”動”を、そしてコチラでは真逆の”静”という、両極の戦いを同じシリーズ作で見せて(魅せて?)くれるなんて。イヤまったく、友野さんの文章力にはつくづく感服せざるを得ませんわ。この両名の対決場面だけでもう、この巻は読む価値ありますとも。作中でダウナー気味になる気分を一気に吹き飛ばすパワーが、このシーンにはありますねー。



▽自薦名場面 ― 285〜286ページ

 「なぜ、いま斬りこんでこなかった」

 すさまじい怒りの表情だ。

 「情けか、それとも卑怯なことはできぬとか、そういったくだらぬことを言うのか!」

 ブレードを支えに、彼が立ちあがる。壮絶な気迫であった。たったいま死にかけた男とは思えない。いや、死にかけたからこその、この気迫なのかもしれない。

 「母が」

 カイリが、その怒りを正面から受け止めた。とても深い湖のような表情だ。何を投げこんでも、波紋を生じない。

 「母が見ておりましたゆえ」

 彼女が答えた瞬間、ライゾの怒りがすうっとどこかへ吸い取られていった。

 「ふん……」

数々の宿命を経て、いま遂に真の対決へ挑むカイリと白斬侠。カイリにとっては討つべき絶対の仇である白斬侠を、その隙を攻めず見届けた理由はただひとつ、実母・イオリの墓があったから。その前で無様な真似を晒すことは、母自身が、何より自分自身が許さないから。続く”静”の殺陣の前に描かれる、またこれも静かなる対決の一幕。直後の剣の交えをより一層に盛り上げてくれる、両名の心の戦いを、ここは選出いたしましょう。



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2006/02/10