感想・小説編。

カルシファード緋炎伝4 黄金の輝きを!

著者:友野詳

出版元:角川スニーカー文庫


「せーのっ!――でやっ!」

派手な音を立てて、壁が吹き飛んだ。

風が吹き込んでくる。

この風を招き入れたのが、彼らがそろって何かをした最後になった。

178ページより


ルナルに浮かぶ東の島国・カルシファードを駆け抜けた、弾華者はじけものヒビト・リョウヤら白狼党はくろうとうの冒険物語、その完結・最終巻です。全てのえにしと宿命が交差し、いまこそ候国は新たな時代への風を吹かせる――

ひとまず始めに、本作を読んで・読み終えて感じたこと。それはまぁ…一言で表せば「心残り」なのかなぁ? たとえば、この物語が前巻のヒキからそのまま(予定通りに、とはいえ)最終巻へと到達していったことについて。もちろん、たった1巻分の内容で、一挙に完結へと至らせたことについては正直、作者の作劇力に感心さえしてしまう面もあるんですけど。でもやはり、ウツホヒコを始めとした遥か人たちとの交流や、銀狼フォルトーンとの決着、そして物語の最後を締めくくる大戦おおいくさまでのストーリー展開は、もっと十二分な文章による作劇を堪能したかった、とゆー心残りを抱いたってのが本音ですねー。リアルタイムで読んでた当時は、3巻読了時点でまさかあと1巻で終わるとはひとつも思ってなかった、つーかラストはぜってぇ上下巻構成だと踏んでたぐらいだしなー(笑)

もうひとつ、最終巻レビューのために抜粋した、本レビュー冒頭のシーンに関して。この場面に、ただひとりエジムだけが居なかったことは、個人的にはどうしても残念でした。物語の展開上では、彼がみんなのもとを離れてしまっていることには必然的な面もあるし、それゆえに本作最後の”勝負”がより一層に盛り上がっている面もあるワケですが…でもやっぱ、「白狼党の一員」として、彼らの”最後”に加わっていなかったとゆーのは、寂しさばかりが先立ちました。エジム離別についての残念感は、前巻でも取り上げましたが。この巻はまたこんなシーンがあったから余計に、ねー。

あと心残りとも違うんだけど、ちと引っかかったのが、この巻中のカイリに関して。両の手の骨が砕けてしまった描写、コレって要するに、最終的に彼女に刀を捨てさせるため、つまり剣の道ではなく人並みの幸せを得る道をたどってもらおうと、作者が意図してそう描いたんでしょーけど。正直カイリって、戦いがあろうと無かろうと刀を振るってないとダメなタイプだと私は思ってるので、個人的には不要な展開だったかなー、と。後日談としてどーにも、キクノに手の治療してもらってまた剣の稽古を始める、みたいな想像が湧くんですよねぇ(笑)

最後に、心残りっつーか無念。あとがきで触れてる、文庫未収録の短編はぜひとも発売してほしかった! これら2編プラス「白狼党の頭がエジムからリョウヤに変わった経緯」が語られる書き下ろしが収録された『旋風録2』が、きっと発売されると思ってたのに…シリーズ完結から4年半過ぎた今も、そんな文庫が発売される気配はゼロミリグラム。いやホント、マジで出してほしかった…… つーかぶっちゃけ、今現在でもそれが出ることを本気で願ってたりするんですが。まぁ、どー足掻いてもムリだろーなぁ… ルナル自体が、総合シリーズ作品としても完結してるっぽいし……


さて。完結までを読み終え、改めてこの『カルシファード』というシリーズは何だったのか? 私が感じたことは、本作はたしかに「時代劇」だったのだろう、といったモノです。カルシファードの諸国を巡り歩き、行く先々で出会いと別れを繰り返し。富も力も無く虐げられている弱者には頼もしい笑顔で手をさしのべ、強大な権力と圧倒的な実力を持つ強者には真っ向勝負で立ち向かう。長らく続く旅模様と、勧善懲悪の作劇、そして繰り広げられる殺陣描写。これらこそはやはり、時代劇だと言って然るべき内容なのだと、私は思います。もちろん本作には、若者たちの成長物語――世の事々を知らなかった彼ら彼女らが、旅の中で少しずつ世界を知り、自身に出来ることを見いだして、人として大きく成っていく――という側面もシッカリとあるんですが。それでもこの作品が「基本」として貫いていたモノは確かに、終始一貫したエンターテイメントによるチャンバラ冒険活劇だったのだと、私は思うのです。


7つの月が見下ろす世界ルナル。その大陸の内海に島々を巡らせる、かつて「嵐の島」との異名をほこった候国カルシファード。たび重なる戦乱の果てに、次なる夜明けの、候国に維新をもたらす”風”のきっかけとなった、カノーの街の若者ヒビト・リョウヤ。そしてその仲間である、ナギ・カイリ、カノー・エジム、キクノ、ツカサ・ゴーセン、シラハ。彼ら白狼党がうねる時代を駆け抜け、そして紡ぎ上げたひとつの冒険活劇。

「語られるべき物語」は、ここで完結する。だがしかし、吹き抜けるからこその風であり、また風がついえることは決して無い。だからこそ、「彼らの物語」はまだ終わらない。それでもやはり、作品としての最後を迎えたのなら…… 新時代のカルシファードに、次なる旅に出たリョウヤに、明日を見て生きる人々に――熱く燃える太陽を、その黄金の輝きを!



▽自薦名場面 ― 274〜275ページ

 中天高く、太陽が何もかもを見下ろしている。男たちは、いますべてを友の前にさらけ出した。その構えを見て、互いの何もかもを見抜いた。

 「そんなに俺に勝ちたかったか」

 「そこまで俺を信じてくれたか」

 ぴんと張り詰めた空気。

 いま破れる。

 もう切れる。

 いまだ。

 いつだ。

 きっかけは、なんだ。

 人々の思いが、その一点にふくれあがった時に。

 「はじめっ」

 さああああっと一陣の涼風が吹き抜けた。

 ナギ道場の稽古場で、幾度となく聞いたカイリのかけ声だ。

 リョウヤがぶ。

本シリーズ最後の名場面はこちらっ! せっかくのラストなので、省略一切無しでまるごと抜粋。まぁね、正直なトコ決着の方とどっち取るか迷ったね。リョウヤとエジム、その彼らに向けて流れる風、ぶつかり合う剣気、交わされる言葉――それら全てが重なり合って行き交う想い。少しだけ変わってしまった互いの立ち位置、それでも微塵も変わらない互いの心。最後の決着を、”終わりの始まり”を告げるのは、いつかの日とまったく同じカイリの凛とした開始の声。彼らの間にあるそれぞれの意志と、ほんの一瞬交錯する懐かしい景色。きっとそこに居るみんなの表情は、今もあの時も同じなのでしょう。そんなイメージが渾然となって読み手に伝わる、締めくくりに実に相応しい場面です。



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2006/04/12