感想・小説編。

カルシファード緋炎伝1 炎、緑に燃ゆ

著者:友野詳

出版元:角川スニーカー文庫


TRPG発信によるファンタジー世界『ルナル』の、幕末チャンバラ活劇風物語『カルシファード』シリーズ新章開幕! 装いも新たに、白狼党の面々が動乱の島国を駆け抜ける。

てなワケで、『青嵐記』から続く新シリーズの第1巻目。前シリーズではどちらかと言えば、「メジの乱」に関わるアレコレを中心軸に物語が展開していて、一カ所の土地を舞台にして話が進んでいった印象でしたが。『緋炎伝』からは毛色を変えて、多種多様な"顔色"を見せるカルシファード全土――まさに日本そのもののような――バラエティ豊かな多くの土地々々を巡り歩くという、そんな展開に変わった様子です。言うなれば、「冒険」の色合いが濃くなった雰囲気、か。まぁ正直リニューアルってほどでも無い気はしますが、やはり新章スタートといったおもむきの1巻目にはなってますね。

そーゆーワケで、新章最初の舞台は、沖縄っぽい…いや、どっちかっつったら東南アジアのテイストかね?、まぁそんな感じの島・マダスカル。カルシファード候国の本島とは明らかに違う、だけど根底には同様の雰囲気が佇むこの南の島で、白狼党ことリョウヤ達がさらなる物語を繰り広げています。ココで改めてつくづく感心するのが、創作でありながらも現実的・実際的な"設定舞台"を用意してくる友野さんの作家としての腕ですかね。このマダスカル、確かにっつーか明らかに、東南アジアの雰囲気を盛り込んだ設定舞台なんですが。まず何より、その舞台の上に絶対あるはずだろうという、人々の生活感みたいなモノの描写が実にシッカリしてる。暮らしの様子とか気候風土とか習慣とか、現実世界を参考にしていることは明白ながらも、あくまで基本はファンタジー世界として、そーゆう部分も過不足無く盛り込みながら、ルナルの中のカルシファードの中のマダスカル、という舞台を出してきているワケです。なによりこの舞台設定が良くできている上でさらに、カルシファード候国のいち舞台として、現在にも続く戦争の中でもっとも最初にもっとも多くの血が流れた歴史があるという要素を、この巻のストーリーと非常にウマく絡めながら読ませてくれる。この、感心させられるまでに巧みな物語舞台の提示とソレの描写。やはり友野詳というこの作者、つくづく"作家力"の高い人物だと思わずにはいられませんね。

んでだ。こーやって物語舞台の作りがウマい上でまたさらに、ストーリー自体が面白くてたまらねぇワケでありまして!(笑) カイリが流麗に刃を閃かせ、エジムが剛力を持って大槍を振るい、リョウヤが豪放に〈鬼蜻蛉おにとんぼ〉で敵を打ち倒すその様は、それぞれに健在。もちろん、キクノやツカサにシラハなど他の面々も、彼らに相応しい活躍をシッカリ見せてくれます。まぁこの巻、シラハの出番は少々薄めかねぇ? さすがに、直接の前巻である青嵐記4巻と比較すると、怒濤・激動の展開とまではいかず、そーゆー面ではパワーダウンした感じがしないでもないですが。"リスタート"の回としては充分にまわっているし、何よりこの巻全体でひとつのまとまったエピソードを描いているので、読み応えの点ではあるイミ前シリーズの展開形式よりも満足できます。さぁさぁ、異界への扉を開く4つの〈銀の珠〉を探し出す冒険、その行く末にはいかなる風が吹くのか。新シリーズは、まだ始まったばかりです。

あぁ。そーいやキーアイテムの銀の珠だけど、たしか前の巻では「7つ集めると云々」っつってたんだよなー。まー細かいツッコミ入れても仕方無ぇケド、友野さんって比較的、物語を描くためには細かい設定の矛盾はどんどん無視するタイプだよなー。コレ以外にも、エジムの一人称に関する文章とかさー。ま、銀の珠については地水火風にちなんだ「4」の方が、世界設定としては合致するからイイのかもしらんけど。もっとも、「ルナル世界の7つの月」に合わせた「7」でも悪くは無いんだけどさー。さー。(←二度言ってみた)



▽自薦名場面 ― 218ページ

 彼女が目覚めた時。

 リョウヤがいた。カイリも、エジムも、ツカサも、シラハも、みんながそろっている。

 仲間が、ふたたび勢ぞろいしたのだ。

 これでもう誰にも負けない。その確信が、キクノの心のいちばん底から湧きだしてくる。その想いに支えられて、キクノは上半身を起こした。

散り散りになっていた白狼党が、今この場に再集結した。キクノ視点でソレを描いた場面ですが、この「これでもう誰にも負けない」という気持ち、おそらく全員の胸中に違わず宿る意識なんでしょうね。この強い信頼感こそが、彼ら白狼党の本当の強さってワケ。短い描写でソレをありありと描いたこの場面、地味な反面かなり心に残ります。



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2005/08/20