感想・小説編。

カルシファード青嵐記4 風は砕けるか!?

著者:友野詳

出版元:角川スニーカー文庫


カルシファード青嵐記、堂々の最終話。登場人物入り乱れ、最初の”戦い”が幕を下ろす。そして物語は新たな舞台へと――…

といった具合で、カルシファード第1シリーズはこれにて一端の幕引き…ですが、その大幕を閉めるに相応しい、全編ノンストップに突き進むストーリー展開がもう、たまらないの一言。流牙りゅうが衆の生き残りたちと繰り広げる怒濤の決戦、ソレがまた、これでもかって程に熱く・激しく・連続でたたみかけます。アクヒメ、キネンという二人の強敵を前に、いかに不利な状況下でも毛ほどの迷いも抱かず、”明日を掴む”ために、仲間の力を存分に借り受けて立ち向かい、『影』の頭領・ヨウゲンには、あふれんばかりの太陽の輝きを持って、異界から呼ばれた猛火すらも切り裂き駆け抜けるリョウヤ。そして、一時は突かれた心の隙を、再度取り戻した確固たる絆によって、いま改めて揺るぎないものとし、アンキとの最終決戦のさなか、ついに会得した奥義・悟連ごれん突きを放つカイリ。エジムは今回、決戦の一騎打ちってのはチョイと出番が無いあたりがタマにキズですが(苦笑)、仲間たちへの力添えのために、そして何よりウエ様を助け護るために、その剛力を存分にふるう様は健在。他にもアレコレ、白狼党以外のキャラクター達が広げる活劇模様なども含め、本作の大きな魅力である殺陣描写が、ラストってことで思う存分楽しめます。

殺陣描写の他にもモチロン、ドラマ部分も抜かりは無し。特に、「満を持して」といった感じで表舞台によーやく顔を出してきた、フォーナをはじめとした大陸サイドのパーティ一行。さすがにココらの部分は、ルナルサーガ本編(って呼び方のが正しいかも)もひとしきり網羅して読み進めている方が、本作のみではハッキリとは描かれてない、(『ルナル』という一連の作品世界全体の)大きなストーリーの流れも把握できて、より深く広く物語を楽しめますが…まぁそれはソレ、知らないヒトらも「なんかウラであるのかなー」程度で済ませてしまうのが吉でしょう。それに別段、ソコの予備知識が無くても充分面白いですしね。なかでもアードの「暴れオオカミ」っぷりは、この巻の限られた登場シーンだけでも充分なくらいにキャラが立ってるしな(笑)

さて、遥か人たちによって候国に遺された、銀の月にまつわる伝承と数々の遺品。それらの謎を解き明かすため、リョウヤたちは新たな旅へ出発する。『彼』という風は、何処へ向かって吹くのか? この風は、カルシファードを如何に流れゆくのか? その問いかけは、『青く澄むも荒れ狂う嵐』から『緋に染まって熱く照らす炎』と変わって、答えを示す。さぁ、次回シリーズ乞うご期待。なーんちて。



▽自薦名場面 ― 210〜211ページ

 ふたたび、ゆっくりとした一歩。

 そして二歩目で、もう――。

 ぶつかりあった。

 (中略)

 斬ッ! 切ッ! 貫ッ! 断ッ!

 二人のあいだで渦を巻く風が、どんどんと加速し、ぎゅんぎゅんと唸り、がががががとはじけあって頂点に達して――耐えきれなくなって炸裂した!

 どん! どんッ!

ヒビト・リョウヤ対セキ・ダンジェイの決戦、タイマン、一騎打ちの場面。このシーンは実のところ、あえて外した中略部分こそがキモ。ただひたすらに、圧倒的としか言い様が無いほどの、刃と刃がぶつかり合う激しい様子を描ききった一連の文章。[文章 → 情景再現]という、脳の機能を介する必要さえ無く脳裏に焼き込まれるかのような、完全完璧なまでの殺陣描写。未だかつて、この場面ほどに「スピード感」に溢れた文章というモノには、出会ったためしがありません。まさに”動”の殺陣の極致とでも言うべきこの場面、こればかりは、ぜひとも実物を直に手にとって読んでもらいたい。



緋炎伝第1巻>

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2005/06/24