感想・小説編。
フルメタル・パニック! ずっと、スタンド・バイ・ミー(上)
著者:賀東招二
出版元:富士見ファンタジア文庫
フルメタルパニック、ついに長編第11巻、本編シリーズ完結となるエピソードの前半・上巻へ。宗介の、かなめの、テッサの、デ・ダナンらミスリル隊員達の最後の"作戦行動"が、あらゆる全てに幕を下ろすため、いま上げられる。 さあさあ、いよいよ訪れた最終エピソード、全てに決着がつかんとする物語のその前半戦が今巻の内容ですがっ! まぁやっぱ最初に言わせてもらいますかねぇ、セミファイナルの前巻から2年半も間を開けながら(※改めて確認して正直軽く引いた。つーかそんなに経ってたっけ…?)この期に及んで上下巻構成かよ、と。や、上下巻になったコト自体は、読みごたえ充分に楽しめるから言うほどのアレも無いんですけど、でもやっぱり前のあとがきでああ述べておいて長らく待っていざ出たらコレってのは、苦言とも別にツッコミのひとつも入れたくなったってしゃーないよね、と(笑) てゆーかなんで分冊刊行したんですかね本作、1冊の分量が異様に厚くなるのを嫌ったのか、分けて販売することで商業的なアレコレを狙ったのか。賀東さん当人のコメントを見ると前者の可能性がかなり高そうだったりするのですがね、端々でそーゆう、本作があくまでライトノベルであることに対して色々気を使ってるらしき発言が見受けられるし。後者については…下世話な勘ぐりは止めておきますかー(微苦笑) ともあれファイナル、本編完結の前半ですよ。前巻からまだ残された伏線その他の解明も行いつつ、真のフィナーレを飾る次巻へ向けた(本来の語義を踏まえての)"前哨"を主体として繰り広げられる内容になっており、下巻への"引き"がこれでもかってくらい存分に利かされた上巻になっておりますな。つーか今巻全体の感想としては、同じ上下巻構成だったデイ・バイ・デイ上巻と若干似通った作劇を思わせますねー。まぁアチラほどダウナー傾向ではありませんが、でも展開の大部分が、最後のミッションに対する逡巡や不安を多分に抱いた中でそれでも迫る戦闘に否応なく挑む他無い、というシチュエーションであることを思うと、何か近しいモノを感じます。その中で若干傾向が違うのがテッサの状況ですかね、メリダ島が大攻勢を受けて命からがら脱出できて、敵への報復を強く誓うも部隊員をその戦いに巻き込むことにはためらいを覚えた、彼女はそのときとほぼ同じ悩み方を今回もまたしてるんですよね。まぁ細かい事を言えば当時と現在とでは状況も達成を狙う作戦目標もずいぶん様変わりしてるワケで、一概に同一視もできないんですが…でも結局ソコで指揮官としての"命令"を下せない・下す覚悟を持てずにいたことを振り返ると、やはりテッサは潜水艦長としての才能はあったかもしれないけど戦隊指揮官としての素質には欠けていたってことなんでしょうねー。こうした、各登場人物がどんな才能を持つ者なのか、彼・彼女とは"何者"だったのかという答えの提示は下巻で他のキャラについても多々描かれる部分なのですが、まぁそこら辺についての言及は次のレビューで。 あと雑感として、前巻までで予測していたことがワリと的中してたのが、ごく個人的な読後感想として面白かった部分だったりもします(笑) この巻で言うと、ミスタ・Hgの正体と、あとレイスが言いかけたもうひとつの報告ですかね。前者はむしろ妥当な予想結果ではあったかもしれませんな、ちなみにもう1人予想していた人物がいて、ソチラは宗介(カシム)の義父・マジードだったんですが。やっぱ作中で彼は死亡してるんですかねー、や、いちおう作中では生死不明とされていたから何かの場面で登場するんじゃないかと思ってたもので。あと後者については…ま、こちらもまた答えが示される下巻のレビューで。
そうした苛烈さや苦難や混沌がひたすらに折り重なり、破壊と闘争と殺戮こそが君臨する物語の向こう側で。この"鋼鉄と銃弾入り乱れる狂騒"の果てで。 このささやかな言葉は、「俺の/あたしの そばにいて」という願いは一体何処へ行くのか。
「でも、やっと分かったような気がする。けっきょく、あなたはとっても優しいのよ。本当なら、兵隊なんかになっていなかったはずの人」 「俺が……? 買いかぶりすぎだ」 「いいえ。あなたはたまたま闘争に必要な力を身につけてしまっただけ。本当は銃の撃ち方や――あんなロボットの動かし方なんて、一生知らないでいるべき人だったの。好き好んでここにいるあたしたちとは違う。それが……」 マオの声がかすかに震えていた。 「ねえ、お願いがあるの」 「ああ……」 「これが終わったら、もうやめなさい。あたしらみたいなろくでなしのことは忘れて、ちゃんと自分のために生きて。銃なんてもう二度と持たないで。人に優しくして、心から笑えるような男の子になって」 鼻をすする音。彼を抱きしめる力がぐっと強くなる。 「あなたなら出来るはずだから」 「無理だ」 「そんなことないわ。カナメを悲しませちゃ駄目よ」 「カナメを……」 「大好きな人がいて、その人が『大丈夫』と言ってくれさえすれば、たぶん人間は大丈夫なの。大抵のことなら」 「…………」 最後の作戦を目前に控え、もしかしたら今生の別れかもしれないウルズ2と7、いや、メリッサ・マオと相良宗介の一幕。もうひとつの候補と悩んで、さらに抜粋範囲をどこまでにするかも思案して、まぁラス前だしといっそドーンと抜き出してみた。この場面を通して強く実感したのは本当に、マオは宗介にとって上官である以上に姉だったんだなぁという思いでして。シリーズ初期からそういった描写はされてきてたけど、その集大成的なものがこの場面に現れているような、そんな情感が優しくも強く感じられる場面です。 |
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2010/09/26