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感想・小説編。

フルメタル・パニック! つどうメイク・マイ・デイ

著者:賀東招二

出版元:富士見ファンタジア文庫


フルメタルパニック、シリーズ長編第9巻。最終章の3幕目、ストーリー構成の上では中間地点と言えるかも。雌伏の時にはもうケリを付けよう、其処に"集う"者達の逆襲が、これから激しく狼煙を上げる。

この巻は本当にもう、登場人物のひとりひとりが、それぞれに立ち上がり諦めることなくおのれの"戦い"を続けようとする、その生き様がこの上なく魅力的に力強く描かれていくのが最大級の読み所と言えましょう! まぁ今巻についてはそれこそ、全キャラそれぞれじっくりと語り尽くしたくもありますが、物理的な問題を考慮して主要人物に絞りましょうか。

まずはテッサ。いやぁ、店頭で買って初めて読み始めたときに目に飛び込んできたカラー挿絵1ページ目の様子は、正直言ってストレートにショックを受けましたね。本編1章で彼女が語っていた「カバーストーリー」はたぶん、あの事件の後に彼女自身が悪夢として見た出来事だったんじゃないかなぁ。彼女の罪悪感が見せた、「作りものの"事実"」だったんじゃないかと。ただそんな確かに過ぎるような絶望を受け取ってもなお、いや、だからこそ、彼女は戦うことを決意した。それは根源的にはたったひとつの目的のために。

次にかなめ。自分の置かれた境遇に悲観し不幸に溺れるのはもうココまで、苦悩も迷いも無意味ではなかっただろうけど、それ以上に大切なもの、自分自身の情動のままに前へと駆け抜ける、そうする気持ちを取り戻した彼女。レナードの抱えていた心の傷も、自分を助けてもらう・そうされるのを望むことで生じるだろう更なる悲劇も、問題要素は無数にあるけれど、それでも欲したのはごくシンプルな想い。

そして宗介。自分が生き残っている、生き残ってしまったのは何故なのか。いつか宿敵が今際に遺した「死ぬな。殺し続けろ」という"呪い"がためか。あるいは母親が末期に遺した「生きて。戦いなさい」という"願い"がためか。ナムサクで体も心も深く深く傷ついた彼は、その全てを受け入れてそれでもなお戦いを止めません。それは誰かの呪いも願いも関係ない、どこまでも単純明快な自分自身の望みのために。求めるひとのために。

他にもクルツやマオにクルーゾー、レモンとコートニー氏、敵ではレナードもそうですし、寝返ったカリーニン少佐などなど、全ての登場人物がそれぞれに思いと望みを抱えて、この物語の中で交差していきます。それら人物達からとりわけミスリル、いえ、正確にはトゥアハー・デ・ダナン戦隊の面々。彼らはあのメリダ島で味わった絶望の底から這い上がり、ただひとつの目的を果たすために逆襲の牙を磨き続けてきました。その目的とは復讐。殺された仲間達の報復を果たすため、執拗にアマルガムを追いつめようとする、彼らがあの"戦争"の向こうに見たのはこの単純なほどの情動。他人は言うかもしれません、「暴力に暴力で返して何があるというのか」と。「死んだ人達は復讐なんて望まないんじゃないのか」と。それはひとつの真実でしょう。仲間の死として払われた"ツケ"を、敵の死でもって返そうとする、それは不毛な負の連鎖でしかありません。でも。和平や理想を語ることは決して間違いではないけれど、それでも、きれいごとだけで片付けられないのが現実です。殺されたことを許さず仕返しを果たす、それは戦いを、「生き死に」というものを知っている彼らだからこその結論。たとえ傲慢な意思と言われようとも、傷つき・傷つけられる本当の痛みを知っているからこそ、彼らは暴力を、復讐を選択するのです。理想だけで人間は生きていけない、理不尽なまでの感情に従って、でもそれを自分自身の意志として定めて戦い続けるデ・ダナンの隊員達。私はそこに人間の生々しさを、この上ない魅力として感じてやまないのです。

――とまぁ、こんだけアレコレ語り込んでおきながら、それでも今巻で最も強く自分のハートを掴んできたのは、軍曹の元に戻った戦友であり新たな"チカラ"、アルとARX-8・レーバテインそのヒト・・なんですけどねっ! てかその前に、軍曹が告げた除隊許可を受けてアルが返そうとした言葉には、ワタクシつい涙が出そうになりましたヨ。そうか、お前は"死"の直前に彼へそう言いたかったのか… で。この巻におけるキーワードは「復讐」だと言えるワケですが、それは他ならぬAI・アルにとってもそうでした。完全な敗北を喫したベリアルとの戦闘、そこから甦った機械の彼が求めたのもまた、敵への復讐だった。「他のラムダドライバ搭載ASに対抗する」のがアーバレストのコンセプトなんだったとしたら、なんつーか私なりの確信があるんですけど、レーバテインの設計でアルが求めた事柄ってきっと、「全てのLD搭載ASを凌駕すること」、究極的には「ベリアルを撃破するため」ってだけのコトなんじゃないかな、と。そーするなら、レーバテインの極端に"とんがった"あの機体設計・設定にもかなり納得がいくんですよねー。

イヤ、作中で宗介もぼやいてましたが、レーバテインってぶっちゃけ役立たずなんですよね。電子兵装のコトもそうですケド、巻末の機体スペックなんか見ても最大稼働時間がたった30時間だとか、貧弱にも程があります。この指摘は正確には、「ミスリルの作戦行動のためにはまるで役に立たない」という意味でして。ミスリルが行うデリケートかつ大胆な様々な作戦行動を実行させるためには、この機体のスペックはあまりにも欠陥が多すぎる。極端に言えば、LD搭載ASと戦って勝つコトにしか役に立たない機体、ソレがレーバテインの実態です。そしてそんなコトは、このマシンコンセプトがデタラメなことは、アル自身も分かってやったことのハズ。それでもココまで極端な設計にしたのはただ1点の理由、ベリアルに復讐するため。この背景を読み取ったとき、アルもまたテッサらと同じ復讐者なのだと思わされた次第です。

にしてもな〜、こーしてレーバテインの設計を読み解くと、この新鋭機ではなくARX-7・アーバレストこそが"最強"のアームスレイブだったのだと、強く思わされますねぇ。なにせアーバレストって、LDとアルという"重荷システム"を内包していながら、それでも透明化ECMを始めとした各装備や稼働時間において、M9にもまるで引けを取らないスペックを維持していた、維持できていたんですから。まぁそれでも稼働時間はさすがに負けてるんですが、言ってもタカが10〜20時間程度の差ですからね(※公式ムックのデータ参照)、大きな不足があるとは言えないでしょう。それらを思うと心底から、バニ・モラウタという人物がどれほどの天才だったのかを意識させられます。


どこまでも優秀で、そしてきっとどこまでも心優しかったのだろう、そうした中であらゆる事々を見通していたいま亡き少年は、ささやかれた者ウィスパードのひとりだった彼は、その"向こう側"に一体なにを掴んでいたのか。何を求めていたのか。我々は何者か、何処から来たのか、何処へ行くのか――答えはまだ無い。見えていない。だけれども、この向こうにソレはきっと待っている。



▽自薦名場面 ― 306ページ

 『まずはひと暴れしてみますか?』

今回は思いっきりシンプルに選出っ!、軍曹との久方ぶりの再会と、周囲に噴き上がる戦火、ソレらを前にしてアルが促した戦闘への意欲のひと言。イヤもうどーだろうな、この圧倒的なほどの自信に満ち満ちたセリフは! おろしたての"衣装"に身を包み、ようやくで主人とも合流し、そして目の前には長らく渇望した戦いが広がっている。早く暴れたくて仕方がない、そんな彼の叫びも聞こえてきそうな、シンプルな力強さに溢れたひと言だよなー!



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2008/06/22