感想・小説編。

フルメタル・パニック! つづくオン・マイ・オウン

著者:賀東招二

出版元:富士見ファンタジア文庫


フルメタ長編第7巻。シリーズ最終章のプロローグ、とでも言うべき急展開を見せる巻が今回のストーリー。これはひとつの”終わり”であり、またひとつの”始まり”でもあり、そうした上での物語の”途上”なのです。

この巻の展開、急転直下の余談を許さない、容赦無しに描かれきったそのストーリーは、少し前の巻末あとがきですでに作者自身がにおわせていた事ではありました。実際、短編7巻末で「これまでの宗介とかなめの生活も、そろそろ限界に達します」と、今巻の内容を確かに示していましたから。しかし、その「限界」という符丁がよもや、このような意味で使われた言葉だったとは。(実のところ長編シリーズでは初めて登場する事になった)林水先輩の告げた暗くも重いひとつの予言、どこかソレを皮切りにでもするようにして、宗介達の”日常”は、この作品で描かれてきた”平穏”の姿は、その全てが壊されていく。何事もなくただ穏やかだった東京での生活は、アマルガムの総攻撃を前に無惨なまでに打ち砕かれた。援軍としてやってきたサントス中尉達は、たった一発のロケット砲により眼前で殺された。平穏の象徴であった学校は、敵幹部・クラマの工作によって危険なる戦場へと変貌させられた。”幸せ”の中にただ暮らしていただけだった少女・恭子は、戦場に無理矢理連れ込まれて重傷を負わされた。頑なだった軍曹が唯一認めた機械の”戦友”・アルそしてアーバレストは、レナードの駆るベリアルによって徹底的に破壊された。相良宗介にとって何物にも代え難い存在であった千鳥かなめは、目の前で為すすべもなく連れ去られた。そして、それらの出来事の最後の結末として、彼自身が居場所として見出し・求めた陣代高校での毎日は、かけがえのない友人だったクラスメート達との決別をもって全てに終わりが告げられた。宗介自身のみならず、遠く海の向こう、テッサらトゥアハー・デ・ダナンの面々も、アマルガムの猛攻を前にメリダ島は見る影もなく破壊され、部隊の仲間達は情け容赦無く次から次へと殺されていった。”何か”をきっかけとして、彼ら彼女らが持っていた・守っていたハズの事々は、どうしようもないほどに壊され・奪い尽くされた。圧倒的な”暴力”が、”当たり前”を終わらせた。

そうして描かれてきた事柄の中でも特に、ミスリル隊員の戦死という描写は、既刊中ではほとんど描かれてこなかった事です。だがしかし、今回の物語ではあっさりと、あまりにもあっさりと数多くの仲間達が無慈悲に殺されていった。――本レビュー読者に大きな誤解を与えるであろう危険性を理解した上であえてこう言ってしまうと、私はこの描写を作者・賀東さんの覚悟だと感じました。これまでは文章構成が巧みだったことも手伝い、既刊の展開で戦死者がほとんど出てこなかった事に対して、作劇上のご都合主義だと理解しつつも、ソコにさほど違和感は憶えませんでした。だけれど今回は、上述してきたとおり、次から次へと仲間は死んでいきます。私はその作劇展開・物語の描かれ方の変化に対して、小細工による”ご都合”はもう止めにして、エンターテイメント性をたとえ損なうとしても描かれるべき出来事としてソレらを真っ向描写していく・いこうとする、という作者の覚悟感じ取ったのです。それは他にも東京の生活を完全に崩壊させてみせたことについてもそうで。やろうと思えばご都合主義的に、日常を損なわせることなく物語を最終章まで持っていくことも、決して不可能ではなかったと思うのです。作者の文章力を鑑みても、ね。だけども、(あえてこう言わせてもらえば)ヌルい展開を捨て去って、確かなまでの”戦場”を見せていく選択を作者は取った。「お話」を読ませる道を選ばず、「物語」を描ききる道を選んだのだと、このことに対して私は思ったのです。

この巻で描かれてきた姿は、アマルガムのもたらした暴力によって皆々があらゆる事柄を壊されていく、残酷なほどの敗北の姿です。だけれども、基地からボロボロになりながら敗走しようとする中で、テッサは「きっとツケは払わせる」と決意した。自分の周り全てが”無くなった”ことを理解しながら、宗介は「必ず千鳥は取り戻す」と誓った。完全なる敗北を突きつけられてなお、誰も彼もが諦めることなく進もうとした。それは復讐ゆえかもしれないけれど。ただ前へと。ただ戦うために。終わりではなく再び始めるために。強く込められた作者の本作への決意、その上で描かれる登場人物達の”いきる”その姿。それらを伝え読ませるために紡がれた確かな”文章”があるからこそ、この巻は圧倒的なほどに面白く読み応えある、シリーズのターニングポイントとして読み手を楽しませてくれるのです。

…てなワケでこの巻はバツグンの内容なんですけど。ただ1点だけ、かなめの描かれ方についてだけはチョット、ねー。や、彼女が敵の総攻撃に打ち負かされたことについては、まったく構わないんですよ。問題は57〜58ページを主とした宗介に対する態度について。私はてっきり、宗介がそーゆう「恐ろしい存在」だと知りながらそれでも好きでいたものだとばかり思ってたのに、ここでは恋心を恐怖が完全に呑み込んでしまっていたのが、なんつーか違和感を憶えたとゆーか。なんだろなぁ、単に私の見込み違い(?)ってことなのかなぁ。でもどーしても、ココの彼女の姿は物語上の描写を優先させたよーに感じられてしまったトコだってのが本音ですな。



▽自薦名場面 ― 131〜132ページ

 「どうも勘違いしているようですね。わたしは一度もあなたたちに『死ね』などと命令したことはありません。これまでも。そして――これからもです・・・・・・・

 その瞬間だけ、彼女の声に揺るぎない力がこもった。

 決意。

 何者にも屈しない決意。

 彼女だけが諦めていない。なんとしてでも、部隊を生き延びさせようとしている。あの一七歳の少女だけが。

 おお、神よ。

 この場にいるベテランの兵士たちでさえ弱気になっているこの時に、そう告げられる彼女の小さな背中が、彼らには何十倍にも大きく見えた。

 全員が直立した。クルーゾーもマオも、スペックも。その他の将兵たちも。クルツでさえも、自然な気持ちで同じ姿勢をとることができた。

 彼女は最後に、一度だけ振り向いて言った。

 「生き延びなさい。命令です」

 彼らは一斉に応えた。

 『イエス、マム!!』

 「幸運を」

 彼女は今度こそ心からの微笑を浮かべて、格納庫を出ていった。

ミスリル西太平洋戦隊〈トゥアハー・デ・ダナン〉総司令官 テレサ・テスタロッサ大佐の強固な気高き決意!! 今回は選び出したいシーンがいくらでもあるんだけど、やはりそれらのベストに輝くのはこの場面しか…! 破れたひとつの恋は、少女を確かに強く大きく成長させた。無くした想いの代わりに得たのは、何者にも屈さぬ強い決意の心。もー、このシーンについてはこれ以上何か言うほど無粋ってなモンだわな。ただ最後にひとつ、こんな娘相手ならそりゃ本気で惚れる(笑)



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2007/06/07