感想・小説編。

フルメタル・パニック! 踊るベリー・メリー・クリスマス

著者:賀東招二

出版元:富士見ファンタジア文庫


フルメタ長編第6巻。サブタイトルを見れば瞭然、クリスマス(イブ)で巻き起こる騒動が今回のストーリー。今回のサブタイトルは、なんか語感が良くて好きだったり。

つーワケで、せっかくのクリスマスでありながらロマンチックなお話になるでもなく(笑)、むしろ何かと引き替えにひとつの”想い”が届くことなく断ち切られてしまったりと、副題らしからぬオールハッピーとは言い難い展開となった今回の長編。まーそんな内容ではありますが、全体的な展開はシリーズ序盤のミリタリー的活劇の色が戻ってたよーな感じで、読み応えはワリとサクサクいけるってのもありますかねー。完全に「軽い展開」ではないけれど、アクションのテンポはイイ感じと言いますか。

今巻の個人的な見所は、ザッとあげてふたつ。ひとつは宗介とAI・アルとのやりとりですか。前回『デイバイデイ』で「フラグが立っ」て以降、発芽が始まったアルの個性が、変な方向でキャラが立ってて、なーんか奇妙な面白さがありますねー。つーか、本気の戦闘中こそ自重してるけど、普段にはあーも変にズレた軽口ばっか連発されてちゃ、そりゃ宗介でなくてもウザいと思うわな(笑) ましてや彼は(悪いイミでなく)堅物タイプですからね、ますますイラつかされるのも無理ないハナシってなモンです。まぁ、宗介が堅物だからこそ、軽口を叩くアルみたいなヤツのがかえって馬が合うんだろーし、それゆえにデコボコ名コンビとして相乗効果が発揮されうるんでしょーねー。うん、なんだかんだでやっぱアルは宗介の”相棒”だよなぁ。

んで、もうひとつの個人的見所が、デ・ダナンVSリヴァイアサン3機チームの潜水艦戦闘ですねー。ただでさえミリタリ知識が皆無に近い私ですから、さらにそこで潜水艦同士の水中戦なんて描写されたもんなら、その専門用語の連発はまさに作中にあるとーり古代神官の呪文さながらといった感じですが。でもコレが、理解が及ばなくはあっても手に汗握るような描写であり、それこそファンタジーものの魔法合戦でも読んでるみたいな面白さが多分にあるってのもホントのところ。分からないなりに”ノリ”だけでも楽しめる作劇で、まさにチェスを一手ずつ進めるようにして敵機を撃破していくマデューカス中佐の手妻は、彼の異名『公爵デューク』に相応しい指揮だと言えましょう。つーか、中佐の実質的な活躍って今回が初だよな(笑) 今までイマイチ目立つ所が無かった中佐の、デ・ダナン副長の肩書きに存分に見合ったその実力。いやいや、ミスリルの将校は本当に、いずれ劣らぬ強者ぞろいだよなー。

最後に見所じゃないけどチョイと。ラストでのテッサ、なんつーか、恋に破れたそのショックは本当にデカかっただろーとは思うんだけど、なにもその想いが「逃避だったんじゃないのか」とまで考えてしまうのは、まぁ、かわいそうだなぁと心底思わずにはいられなかったりして。自分が抱いていたその感情を自らが否定してしまうのは、あまりにも悲しいですって、ねぇ。まぁアレだ、マオの慰めじゃないけど、きっと彼女は「いい女」になれるよ、うん。



▽自薦名場面 ― 269〜270ページ

 「なんってクリスマスかしらっ!!」

 銃声と爆音と怒鳴り声の中、かなめは天に向かって叫んだ。

 OK、この際だ、認めてもいい。あたしはこいつに恋してる。なぜか、いまだけはそう確信できる。この信頼感。この銃火の中だからこそ、こればっかりは否定できない。

 さて、今夜はクリスマスだ。

 いまごろ日本中の普通のカップルは、うっとり愛を語らってることだろう。美しい夜景と情感たっぷりな音楽。すてきなディナーと、ムーディな会話。山下達郎の歌に出てくるような、そんな情景だ。自分もちょっとは、そういうのに憧れていたのに。

 ところが、あたしとこいつと来たら!

 得体の知れないロボットに追われ、至近距離の跳弾にひるみながら、一心不乱に走っている。ずぶぬれになって、逃げ回っている!

 こんなカップル、聞いたことがない!

 「前世よ! きっとあんたかあたし、どっちかが前世でひどい悪党だったのよ!!」

 「よくわからんが、問題ない!」

鉄火場なのに、いや、鉄火場だからこそ今更ながらに思い知る自分の中の確かな想い。や、そんなムードとは180度向きが違う状況ですが。シーンの切り方としては長いクセに尻切れぎみだけど、取り出したい部分は大体こんくらいでイイので。まぁ当人達には、てゆーか主にかなめにはとても災難なハナシですが、でも彼らの関係をこれ以上如実に表現した場面も他にないよなぁ(笑)



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2006/10/02