感想・漫画編。

TWIN SIGNALツイン シグナル 18巻

著者:大清水さち

出版元:ガンガンコミックス


ロボットマンガ、遂にラス前の18巻へ。失ったと思われた”チャンス”を取り戻すため、アトランダムを抜け出した6人の脱走組が、シンガポールからクアラルンプールへ、最後の舞台へと駆け出す。

さてさて、本作もこーして終わりに向かう中で、物語の総まとめとして描かれることになる作品テーマ、「ロボットとはどうあるべき存在なのか」という命題が表出してきました。本シリーズの序章的イベントだったリュケイオン編でも、「ロボットは人間の道具なのか」という問いかけを通して、アトランダムやカルマの葛藤を描き、最後にシグナルと信彦の絆と成長を見せてきましたが、その頃と比べて最終章となる今回の展開はより一層に哲学的なおもむきを見せています。にしても、リュケイオン編の連載から実年経過でも5〜6年は経ってるんですよねー、その間に現実の科学技術なんかも色々変わったり進歩してきたりするのを考慮(?)すると(分かりやすいトコだと、今巻で信彦がケータイ使ってるのとか)、つくづく長いこと続いてきたマンガだよなー、と。

ともあれ、今巻の中で語られているロボット観に主眼を置いて。まずは114話でのカシオペア博士から。オラトリオの見せた混乱を前に、みのるさんら若い工学者が「暴走による異常行動」と解釈した中、熟練の工学者であるカシオペア博士は冷静にオラトリオの行動のポイントを並べて「ロボットとして正しい言動」だと結論させました。「ロボットは感情も見せるけど、人間と違い感情だけでは動かない」とゆー分析やソレに続くセリフ内容には、彼女が何十年と積んできたキャリアの大きさ、息子コードエモーションとゆー”家族”を持ちながら、その上でいち工学者としてあくまでも研究対象であるロボットへの、鋭い観察眼の冴えを存分に思い知らせてくれます。いやホント、この博士を前にしては、前巻でシグナルの特異性を”観察”していたみのるさんも、しょせんは未熟者でしかないってのがよく伝わりますな。うぅん、つくづくこの場面での博士には痺れる…!

続いては115話、かつてにDr.クエーサーが語ったロボット観を。「人が真に望むロボットとは、選ばれた一人のみのために何事かを考え・問いかけに答え・事を成すため行動するもの」と言うのがドクターの考え。そして、「そんな存在を側に置く=望む者に成長は訪れず、それゆえ人に望まれた存在ロボット結果、人に滅びを与えるものだとも。滅亡と再生、とりわけ滅の果てにある輝きに美学を見出していたドクターゆえの言論だとも言えますが…人間誰しもが多かれ少なかれ持つ破滅願望、「生」を求め続ける中でその真逆である「死」を望む・望んでしまう人のさがでありごうを考えると、ソレは確かな”コタエ”であるのかもしれないと感じてしまうワケで。もちろんコレは人の心の闇、なんの未来も救いも無い、ただひたすらに真っ黒でドロドロしたマイナスの本質でしかない結論なんですけどね。

最後は、本作にとってのラスト新キャラ、黄履荘ウォン リーチュワンのじいさんが話す”講義”より。科学者でありながらも、自らの思想の根源を中華道教・タオに置き、ロボット工学を通して不老不死を目指したとゆー黄じいさん。…なんつーかさ、このじいさん、科学者ってよりも錬金術師なんじゃないっすかね?(笑) 科学のチカラをもって、生命が本来持つ限界をも打ち破り永劫滅びることのない存在=ロボットを目指そうとした、コレってモロに錬金術だよなぁ。まぁタオ自体が錬金術に系譜するよーな思想・学問じゃないかとも思うし、そもそも科学の成り立ちからして錬金術と関わりがあるんだから(※正しくは化学の方だが)、じいさんの論理はあるイミで一貫した考え方ではあるんですけどね。まがいものオカルトとして絶えた錬金術最大の目標を、科学ロボットでかなえようとした、そうしようと挑んだひとりの老人。その向こう側には何か、科学や錬金術という「学問」の根底に刻まれる”命題”への解を示そうとする様までも描こうとしているようにも、私には感じられてしまいます。


人とは違うロボットの正しい在り方・捉え方。人が真に抱くロボットへの願望。ロボットを通して人が目指す命題への問答。人と同じ姿をし、人と同じ目線を持ち、人と同じ知性を持つ、それでいて人とは異なる存在である人間形態ヒューマンフォームロボット・アトランダムナンバーズ。彼らの物語を通してこの作品が示す、「ロボット」への”こたえ”とは如何なるモノなのか。自分たちを抹殺しようとするクオータやDr.クエーサーに対して、A-Sエースシグナルが果てに見出したロボットの未来とはどんなモノなのか。人とロボットの在り方を通じて家族の絆を描いた長編ストーリー作品、次巻で堂々の完結です。



▽自薦名場面
 ― 51ページ

 「――信彦、あんたも行くの?」 「もち ろん」

 「ふーん…」

脱走直前の信彦に、今更聞くまでもない質問をする元祖・天才美乙女ことクリス嬢(笑) ここのシーンは、二人の会話の中に挟みこまれたこの微妙な”間”こそが重要で。ハタ目にはなんてコトもない会話で、この後に続くシーンも単なるコメディ、なんだけど、ここの「ふーん」と呟いたその内心には間違いなく信彦に対する気遣いが、無鉄砲なを心配するクリスの姉心があるんだよね。血の繋がりは無くてもやっぱり、クリスと信彦だって音井家の”きょうだい”ってことなんだよなー。



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2008/01/21