感想・漫画編。

屍姫シカバネヒメ 4

著者:赤人義一

出版元:ガンガンコミックス


生者と屍者のホラーバトルマンガ。序章はここで幕を下ろし、また新たに"物語"が始まっていく、そんな展開を見せる巻。送儀嵩柾そうぎ たかまさとその契約屍姫・山神やまがみイツキを始めとして、敵味方共に新キャラも続々登場しております。ま、今巻は展開上どーにもシリアスに片寄っちまってるけど、そんな中でおまけの146ページなんかは最高デスな。てか主役なんて動物ですらないがな(笑)

さて、前巻が「景世の死」を描いたのに続いて、今巻では「彼の死がもたらすもの」を描いていると言えましょう。身近な人が死んでしまう・いなくなる・会えなくなる・消えてしまう…これは何も物語の中だけの出来事などではなく、私達の生きる日常にも、むしろ日常にこそ存在している、だからこそのまさに"現実"です。創作フィクションでも現実リアルでもそれぞれに、何らかの原因を持って人は死にます。死なない人はいません。そういう"死"が日常にどう影響するモノなのか、それをなんの気もてらわず、だからこそ明確に描いているのが、主に52ページ前後のやり取りですかね。「もう二度と……一緒に朝ゴハン食べることもないんだね」、先生のこのセリフなど、まさにその「死によって変わる日常」の象徴と言えましょう。これまではずっと変わるコトなんてないと思っていた"あたりまえ"が、その人が死んでしまうことで変わってしまう・終わってしまう。おはようを言う、そんな普通のことでさえその人が死んでしまっては決してかえってこないのです。だからこそ死とは真理であり、それゆえに残酷なのだと思わされるやり取りです。

そんな景世の死によって、何よりも主役2名の"全て"が変わっていきます。まずは屍者サイドのマキナから。唯一・不変だと思っていた契約僧パートナーが亡くなり、屍姫としての戦う理由=未練と妄執さえも喪失しておのれを見失っていく彼女。「戦う理由」を無くした(亡くした)死人の少女は、それでも景世の最期の言葉を思い出し、景世と歩んだ道のりを思い出し、だからこその自分が戦う理由を思い出し、再び敵に立ち向かった。それは言ってしまえば、業の深い在り方なのかもしれません。特に本作の仏教的テーマも踏まえると、現世に未練を遺し、それゆえ屍として世にまた戻った彼女自体が、71ページで白江しらえの語るように罪深き存在とも言えます。でも、それでもひとりの少女が残酷な現実に戸惑い、立ち向かい、その先に至ろうとする在り方には、たとえそれが屍者の姿だとしてもソコに人の輝きを思わずにいられないのですよねー。"死"の側にいるからこその"生"を見ると言いますか。

そしてもうひとりの主役、生者サイドのオーリ。彼の変わってしまった日常を描いたものとしてはまずなにより、15話のラストが最も象徴的ですねー。まさにこの場面を通して彼が本作の主役になった、彼の物語が始まったとでも言うか。ともあれ、「兄と父親と親友であった人を亡くして」、少年の日常は全てが終わって・始まりました。だけど、立ちふさがる現実はどこまでも残酷で。たとえオーリ自身に戦う意志があっても、光言宗という"組織"は彼の志をかなえてくれるワケではない。75ページ前後なんて特に、おのれの無力さをただ噛みしめるしかないという、非情な現実への憤りを、少ないセリフの中に確かな表情作画を持ってして十二分に描いてくれています。ただ、現実がどれほど無惨だとしても、それでも彼は自らの意志で立ち向かい、少年らしい無鉄砲さも合わせて自分自身を、大切な人との約束を貫こうと走っていく。この姿もまた、自分の意志こそが全ての正否を握っているのだいう"生"の本質を感じさせてくれてやまないのです。

そうして彼らは彼らなりに、変貌した"全て"の中で立ちあがりました。でも、その瞬間にどれほど強い想いがあったのだとしても、やはり現実とは常にうつろうもので、この先まだ何度も戸惑う時間は訪れてしまいます。そこにどう向き合っていくのか、それは続巻に任せるとして…今はこの少年と少女の新たに始まる"たたかい"を、ひとつ見つめていくとしましょう。



▽自薦名場面 ― 198ページ

 「ほお……面白い。目が覚めたか・・・・・・? 星村の娘

 「……………ええ。ありがとう七星しちせい
  貴方のおかげでわたしはわたしをとり戻せた………

  わたしが……屍姫だってこと、思い出せたわ」

"自分自身の仇"を前にして、遂に大切な人の死を乗り越え立ちあがる屍姫・マキナ。泣きはらしたように目元を赤くし、それでも穏やかな微笑みをたたえて自分が何者か、敵に語りかけるその姿を見て、率直に私は綺麗だと、美しいと思ったんだよねぇ。生への妄執と未練に囚われ、屍者としてでありながらそれでも誇りと意志を決して忘れず戦う彼女らがなぜ「屍姫」と呼ばれるのか、この姿を通して強く思い知らされた気分なのです。死の側にありながら強くて気高くて美しい、それゆえの屍姫、きっとそうなんだろうなぁ。



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2008/07/17