感想・漫画編。

Q.E.D. …証明終了 12巻

著者:加藤元浩

出版元:月刊マガジンコミックス


理数系ミステリマンガ第12巻。10巻収録・『魔女の手の中に』の続編となる前後編エピソードをメインとして、合計で3話収録になる巻。そんなワケで当然ながら、続巻も含めてシリーズ最大ページ数を誇ったりして。

ではまず『銀河の片隅にて』。サブタイだけ聞いてるとシックなSFでも思わせるよーな題名ですねぇ。もっとも内容は、毎度のようにコメディ寄りな非・殺人事件のお話ですけど(笑) トリックの説明はヘタにややこしいせいでチョイと分かりにくく、基本のあらすじも取りたてて目を惹くトコロもないんですケド。ラスト前・94〜95ページ、小月こつき教授の心無い発言にストレートに怒りをぶつける水原さんの描写は、見た目以上に大きなポイントなんじゃないかと思います。この時の彼女はつまり、燈馬くんがいたために生まれたかもしれない不幸=10巻でのアニーさんに関わる出来事、を知っていたからこそ教授に対して怒ったワケで。赤の他人がそんな古傷を抉るようなことを言ったことも怒った理由のひとつ…でしょーけど、ソレと同時に、燈馬くんがいたおかげで生まれた幸福の方がより多いことを知っているからこそ、彼のことを何も知らない人間が勝手な物言いをすることが許せなかったんだと思います。ソレってつまりは、彼女は彼女なりに燈馬のことを”理解”している証拠なワケで。とにかくまぁ、そーゆーことに対してストレートに感情をオモテに出せる水原さんは、コレこそ彼女らしい姿であり、また彼女の美点なんじゃないかと思います。ともあれ、この時のセリフが一種の伏線となって、次のエピソードへ。

てなワケで『虹の鏡』。本作、1話完結が基本のマンガだから、今回みたいな「完全な続き物のエピソード」って今後の続巻を含めてもかなりめずらしい作劇なんですよねー。燈馬の辿った足跡を追うカタチで進むこのシナリオも今までになく、サスペンス色の強い内容と相まって、確かに読み応えのあるストレートに面白いエピソードとしてじっくり描かれております。この回、水原さん達が何も言わずひとりで勝手に動き回る燈馬くんに気を揉むのは当然の話で、当の本人もこんな行動を取ればみんなが心配することだって”今の彼”なら充分理解できるだろうコトなんですけど。でも、アニーさんに関するこの事件は彼にしてみれば大切な人間であってもあまり触れてほしくはない過去のひとつであり、またこの事件の真実を明かしその向こうに待っている”結末”へと到るのは、自分自身の手で決着を付けたいことだったハズだから。だからこそ、親友であるロキにも妹である優にも、ようやく巡り会えた「自分を理解してくれる人」であり「今を楽しく生きていられる理由」であるはずの水原さんにも、誰にもなにも告げずひとりで渦中に飛び込んだんだろうと思うんですよね。…う〜ん、なんつーのか、私自身も少々燈馬と似た”性質”を持ってるからなー、彼の立場になってみるとその心境分かっちゃうんだよなー。

とにもかくにも、事件の結末とエピローグでのやりとり、そしてラストシーンまで、「燈馬想の物語」として都合4話ものボリュームに渡っただけある存分な内容だと思います。まさにシリーズの中核として位置付くに相応しいエピソードと言いますか。もしまたどこかでアニーさんが再度登場することとなったら、それはシリーズ最終話になるんじゃーないかと思うんですけど。そのエピソードは果たして描かれるのか、そして描かれるならばそれは一体いつになるのか。個人的に、期待は脹らむ一方です。



▽自薦名場面 ― 236ページ

 「無事でよかった!」

今巻の最終ページより。もしかしたら、言ってやりたいことはソレこそ言葉に表せないくらいたくさんあったのかもしれないけど。でも、ようやく顔を見られたときに言葉に出たのは、彼が無事だったことに心から安心した気持ちだった。ストレートな感情の表現と、その気持ちがそのままに出た行動、そんな水原さんらしい姿があるからこそ、この場面が素直に「良いな」と感じられるワケで。周囲の人間が何を思っていようと、普段の言動がどうあろうと、彼に対して抱いている事はコレが本当の本音なんだろーなぁ。サスペンスだったストーリーを良い気分で締めくくってくれる、そんな素敵な描写の名場面です。



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2006/12/28