感想・漫画編。

Q.E.D. …証明終了 9巻

著者:加藤元浩

出版元:月刊マガジンコミックス


理数系ミステリマンガの第9巻。収録後半の『凍てつく鉄槌』は、あるイミ「本誌」である月刊マガジンに掲載されたエピソード。場合に寄っちゃあコレを機会に本誌へ連載移行、となるんだけど、当時にはもうマガジンGREATの看板作品だったからねー。結局移行は成らず、別の新連載(『ロケットマン』、そののち『C.M.B.』)が始まりました。ま、作者のファンとしては、ソッチの方が良くはあるか。私はどちらもコミックス買ってませんケド(笑)

ではまず『ゲームの規則』。「去年のクリスマスにツリーの星が燃え尽きた」と水原さんは申してますが、サザエさん方式の本作に置いてその「去年」ってどの時系列にある「去年」なんだ、と。それにしても、ココで出てくるソロモンさんの発言は、まさにチカラを手にした者の言葉ですねー。富というひとつの権力を持つからこそ、自分がルールを決める権利を持つことや他者がソレに従うことを当然とし、他人も自分も含めてそれを違うことには強い反発心を示す。まぁ、苦労した時代もあるからこその、今の姿ではありますが… う〜ん、ニュース関係で少し以前に起きたことを思い出すなぁ(笑) まぁそんな戯言は置いて、そんなワガママじじぃのソロモンさんでも、最後には我を曲げて奥さんに頭を下げたところを見ると、結局は奥さんを本当に愛してたんだろーなぁ、と。もっとも、子供(燈馬)の言うことだから渋々でも言うこと聞いたってのもあるんでしょーが、でも毎年クリスマスに多大な手間暇かけてゲームを続けていたのは事実ですしねー。何気に純情なじーさんだ(笑)

次、上記のとーり、企画的な面では高い重要度を持つ『凍てつく鉄槌』。待望の(?)本誌掲載エピソードってことで、今更改めてキャラの紹介的なセリフ回しがあったりするのはご愛敬ですが、ともあれこの回のトリックはなかなかに練られたモノがありますねー。前・後編120ページの読み応えもモチロン、数学を絡めた事件とゆー部分にはQEDらしさがありますし、天才少年の前に立ち塞がる天才老人とゆー対決構図も、過去の回ではあまり類を見ない要素です。数学証明の常識を破った上で明らかにされる真実の一旦、なんてのも面白い作劇ですが、岸崎きしざきさんが出した勝鬨かちどき橋のパズル、コレちゃんと橋が使えないという条件があって始めてパズルが解答できるようになってるのが、パズルとして正しく作られていてつくづく感心させられる。話の中では、実はあくまでギミックのひとつでしかないんですけどねー。そしてもうひとつ興味をひくのが、この回はめずらしく燈馬くんが勝利して終わっていない点ですね。試合に負けて勝負に勝った、ってのとも違って、やっぱり今回は引き分け以上のモノが無いんですよね、少なくとも燈馬側には。序盤では「真実は明らかにされるべき」と言いながら、最後には「明かしても仕方のない真実もある」と述べて、「この事件は一人の天才によってすでに封印されている」として実質的な敗北すら認めている。記念的な月マガ掲載の回でこーゆー結末を描くってのは、ひそかにチャレンジブルかも、って感じもします。なんせ、他の回でこの手の結末迎えるエピソードって無いもんなー。とまぁ、そーいった点では月マガに載るのに相応しいエピソードなのかどーか正直ビミョーな線ですが、でも面白い回だとゆーのは確かですねー。



▽自薦名場面
 ― 205〜206ページ

 「岸崎さん。僕を侮らないで下さい‥‥! あなたの仕掛けたワナに‥‥簡単にはまるとでも思ったんですか?」

 「――ヤレヤレ‥‥相手が悪かったか‥‥‥
  だが証拠はない‥‥そうだろ?」

 「ええ」

 「もしあったところで‥‥引き分けにもっていく自信はあったがね」

 「でしょうね」

人知れず決着を迎える勝鬨橋遺体発覚事件。今回もめっぽう迷ったけど、まぁココの会話シーンかなー。全ての真相を解き明かした燈馬少年と、それでもなお自身の「完全敗北」は無いと確信している岸崎老人。25年を経て改めて闇の中に封ぜられる事件の真実、それは一方にとっては望まざる結末という敗北であり、一方にとっては計画通りの結末という勝利だった。2人の「天才」による静かな対決の終焉が、このやりとりに描かれています。



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2006/07/26