感想・漫画編。

ONE PIECEワン ピース 44

著者:尾田栄一郎

出版元:ジャンプコミックス


海賊マンガ44巻。海賊・麦わらのルフィVS CP9の殺戮兵器・ルッチの死闘の決着、バスターコールが呼んだ戦火からの脱出劇、そして様々な舞台と戦いで繰り広げられてきた大騒動の最後に訪れるは…。激動のエニエスロビー、遂にクライマックス。しかしこの巻から始まってる表紙連載シリーズ、エネルはどーやってフェアリーヴァース=月に到着したんだろか。あの方舟で大気圏越えたの? まぁ理屈で考えたら負け、とゆーか本作世界の月が地球のソレと同じ条件で存在してるとも限らんのだけどな。エニエスロビーなんて夜が無い島らしいしなぁ。どーゆうことですかソレ。

さぁ、まずはルフィVSロブ・ルッチ! 身体能力の加速化を計るギア2に続き、肉体を巨大化することで巨人族に匹敵するパワーを得るギア3をも発動したルフィ。本誌連載当時、ギア3の能力はギア2の発展系なのかな、と思わせておいてフタを開けてみれば全然別モノのパワーアップだったってのは色々と面白かったトコロですね。その戦闘模様もまた、スピード感の高まる2に対して、鈍重ながらもダイナミックな攻撃のオンパレードとなる3の描写が読みごたえあります。軍艦の甲板は踏みつぶすわ、極太のマストも一気にへし折るわで、巨人ギガントの名に相応しい豪快さがありありと描かれてますなー。まぁそのギア3も結果的に、スピードタイプの戦闘力を発揮するルッチには相性が悪すぎて、最後はいつもの気合い押しで限界発揮のギア2でもって勝利をもぎ取ったカタチですが(笑)

さてこのルッチ戦。とゆーかCP9との戦い全体がなんですけれど、本作のこれまでの物語展開とはまるで大きな違いがあるんですよね。ってのも今エピソードにおいて、麦わらの一味は正しく"ヒーロー"たり得ていないのですな。これまでの作劇では、麦わらの一味は偶然・必然による経緯は別にして、基本的にその敵対勢力は何らかの悪徳をもって作劇舞台で害をなす存在ばかりであり、ルフィたちの戦いは常に善行、その敵勢力によって不幸を被る人達(もしくは島などの地域)を救うにいたる結果を毎度導いていました。しかし今回のエピソードは、いみじくも142ページでルッチが「闇の正義の名のもとに!!!」と語っているとおり、正義は敵の側にこそあるんですよね。オハラの出来事からも表面化したように、CP9擁する世界政府がその背後に大きな謎と闇をたとえ持っているとしても、それでもやはりこの組織は現在の世界にとって絶対の統治存在であり正義、ソレに敵対する者ら=ルフィたちはどうあっても悪にしかならないワケです。もっとも彼らは世界政府の善悪に関心なんていっこも無く、ロビンを救うためにこの戦いをけしかけただけ、つまりは我欲を貫き通しただけなんですが。まぁそーいった心情・信念は別にしても、やはり今回の戦いだけは完全な正義ではないというがこのエピソードの本質。ただ展開を追うだけで言えば毎度変わらぬ少年マンガのヒロイックストーリーなんですけど、内情を読むと単純なソレでは治まらないこの微妙な齟齬は色々と興味深いトコロではあります。ソレを考えると、この決着の後で一味の懸賞金額が一気に跳ね上がったのは必然ではあるなぁ。

さあさあ。激しい戦いが決着したその後に待ち構えていたのは、思いも寄らない"最後の仲間"の助けの結果が生んだのは、そのかけがえのない仲間・海賊船ゴーイングメリー号との真の別れだった…! イヤもうホント、尾田さんはこのエピソードではあの場面を描きたくてここまでアレコレやって来たんだろうなぁ、ってのがもの凄く伝わってくる作劇構成ですねまったく。あの修羅場からみんなを助けるためにメリー号が登場するなんて、当時読者の誰も想像できんよなー。この一連のシーン、184〜185ページでの復活登場から、ガレーラの船と合流してまるで緊張が解けたかのように船体を崩壊させる描写、そして最後の見送りまで、メリー号の生き様 に一切目が離せない展開です。

その中であえて他の人物、213ページからのアイスバーグさんの発言が実に印象的です。35巻、ウォーターセブンで船の査定結果を受けた上での発言は正直、しょせんは他人の船だと、突き放したような印象の強い物言いでした。だけど一連の出来事の後に船の有様を目にして彼は宣告しました、「もう眠らせてやれ」と。ルフィたちがあれだけの熱意を持って語ったその真意を知り、今度こそメリー号の素晴らしさを認め、しかし船大工だからこそその上で船の限界を告げた、告げる他なかった。世界でも屈指の船大工にここまで言わせた海賊船・ゴーイングメリー号の最期。そしてこの別れは麦わらの一味にとって初めて経験する仲間との離別だとも言えましょう。ここまでの長い航海の全てを共有し、だが志半ばでこの海で散るに至ったその船。だけれど、「ありがとう」と船員達に感謝を告げた"彼"は、大往生とは言えなかったとしても、きっと笑顔で眠りにつくことができたのでしょう。最期に笑って死ねる、それはきっと最高の人生の幕引き。たとえ船であろうと仲間に感謝して笑って逝けたメリー号は…本当に幸せな結末だったんだろうなぁ。

全てを奪い返すために向かったエニエスロビー、命からがらソコからの脱出を達成した一同は、確かにいちどは奪われたロビンを取り返すことに成功した。けれど本当の決着は、淡雪舞い落ちる海原の中、メリー号なかまとの別れをもって描かれる。帰ってきた仲間ともう決して会えない仲間、喜びと悲しみを重ねて、ウォーターセブン編いよいよ次巻で完結です。



▽自薦名場面 ― 182〜185ページ

 「海へ飛べ―――!!!!
  海へ―――!!!  ロビン!! ルフィを海へ落とせるか!!?」  「任せて!!」

 「バカ野郎!! 自滅する気か!!! ヤケになっても助かりゃしねェぞ!!!」

 「助かるんだ…!! 助けに来てくれたんだ!!!
  まだおれ達には………!! 仲間がいるじゃねェかァっ!!!」

 (中略)

 “―――帰ろう、みんな!!  また…冒険の海へ!!”

 「メリー号に!!! 乗り込め〜〜〜!!!!

 “向かえに来たよ!!”

セリフ部分はあえてキモになる部分だけを取り上げました、一行の絶体絶命のピンチに駆けつけた最後の仲間・ゴーイングメリー号の参上!! 今回は一連の展開中で3箇所くらい候補があったんだけど、やはり最初に受けた感動のままに、再登場のこのシーンを選択した次第。ホント、ジャンプ本誌で読んだ時は「…バカな!?」って感じだったもんな〜。



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2010/04/16