感想・漫画編。

ONE PIECEワン ピース 37

著者:尾田栄一郎

出版元:ジャンプコミックス


海賊マンガ、37巻。W7編・序盤の"転"…に当たる展開と言えるかな。前巻終盤で明かされたフランキーの正体(とは言わんか)を通して描かれていく、彼の、とゆーよりはウォーターセブンの過去の物語がメイン。

てなワケでONE PIECE恒例、各エピソード毎にどこかで挿入される過去編。今回はフランキーにスポットを当てたソレですな。まぁ毎回思うことでもあるけど、こーしてかつてあったこと、その人物が通り過ぎていった出来事を明かされると、まさに「人に歴史あり」って言葉がアタマを過ぎりますね。特にフランキーの場合、初登場時は完全に敵キャラでしたからねー、ガレーラカンパニーの職長その他が一気に敵になったそのバックで、フランキーが逆に味方になる(のかも?)といったように、キャラの関係構図がいつの間にかすっかり転換されているのが面白い作劇です。ウソップとのやり取りからも、ソレまではタダの「街の暴れ者」とでしか映っていなかった彼の本質が、実は「面倒見の良い兄貴分キャラ」であるとゆーのが伝わるし、解体屋ではなくいち船大工としてメリー号の真実を諭す様子でも、人物像の掘り下げとして正しく機能してる印象ですな。

そんなこんなで過去エピソードですけど。まぁ今回のはフランキーの過去とゆーか、世界最高の船大工・トムさんの物語といった印象のが強めですかね。いやぁ…偉大な人物ってのは彼のような人(まぁトムさん魚人ですケド(笑)を指して使う言葉だよなー(溜息) 荒廃の一途を辿る愛する街を救うため、おのれの持てる技術の全てを尽くして"希望"を作り上げようとするその意志。その夢を見事かなえ、その果てに自身の破滅が訪れようとも、自らの作り上げた"希望"が遺り続けるのなら「自分は街のチカラになれる」と言い残す優しさ。そしてやれるだけのことをやったなら、おのれの成したことに誇りがあるのなら、何があろうとも「ドンと胸を張って生きろ」と二人の愛弟子に教え伝えるその大きな生き様。たとえいま現在のウォーターセブンの市民達がその人の名を知らなくとも、かつての犯罪者として伝えられぬままにいるとしても、それでもたったひとつの海列車はその偉大な名を決して忘れず刻み込む。パッフィング・トム―― 煙吹きトム ――が昨日も今日も、街の希望と彼の夢を乗せ、海を優雅に走り行く。…いやぁ、そりゃアイスバーグさんもフランキーも、こんなにも偉大な男の背中を見て生きてきたんなら、並で留まらないトコロまで立っていくのも当然だわなー、と。アイスバーグさんは完膚無きまでの街のボスだし、まぁフランキーについては本エピソードの最後にならないと明示されないんですけど、彼も彼でまたウォーターセブンの平和のために生きているワケで。全ては自分たちの師匠が救ったこの街のため。彼が愛したこの島のため。その"魂"は脈々と、受け継ぐべき者に受け継がれていくのです。

あー、ところでトムさん、魚人なワケですが。このレビュー書いてる時点の連載でいって少し前に描かれた展開で、魚人という種族の歴史とソコに深く関わるのであろう、とある"しるし"があるんですが、それと同じと思われるモノがこの人にもあるんですよね。まぁ今回こーして、連載展開を踏まえた上で読み返してやっと気付いた事柄なんですが…本作の世界設定に横たわる数々の伏線の一端は、こんな何気ない場所にも挟みこまれているのだと思うと、尾田さんの仕込む物語構成の巧みさにはむしろゾッとさせられます。



▽自薦名場面 ― 95ページ

ワリと久しぶりだなー、セリフのない場面を選出。まぁそんなのがそうそうあっても逆に困るか(笑) この場面はこう、何気ない描写に見えて凄まじいまでの演出力が発揮されてるよなぁ。これまではどれほど「メリー号はもうダメだ」と言われてきても、ウソップのようにまだどこか信じられない・信じたくない気持ちが先に立ってた、んだけど、この船底の有様とソレをハッキリ目の当たりにしたウソップの表情、これらを描かれた瞬間に、もう本当にこの船は二度と走れないんだと、なによりも明確に思い知らされるんだよな。どれだけの想いがあっても、コレが真実であり事実なのだと、画だけでまさに"描かれる"場面。



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2008/10/24