感想・漫画編。

鋼の錬金術師 10巻

著者:荒川弘

出版元:ガンガンコミックス


錬金術マンガ、ココでよーやく第10巻になりました。前巻から引き続いて人造人間ホムンクルス一味との対決を繰り広げ、後半では物語の根底に深く関わる重要人物がとうとう表舞台に登場。様々なカタチで人と人とが錯綜していきます。

さてさて、バトルもドラマも全部ひっくるめて見所満載・怒濤の展開目白押しな今巻、10巻目とゆーひとつの節目も考慮されてのものなのか、とにかく読みごたえたっぷりな内容となっております。そんなワケでまず前半は人造人間ホムンクルス達との各バトル展開ですな。ココはホークアイ中尉やハボック少尉らによるガンアクションを主体とした派手な戦闘模様が単純に絵的な面で楽しめるトコロですが、そんな中でもマスタング大佐やアルが繰り広げる錬金術戦闘も読みどころと言えましょう。特に大佐が 水=H2O=水素と酸素 を活用して可燃ガスを錬成するシーンなど、まさに焔の錬金術師の二つ名にふさわしい戦い方とゆーか。こーゆう、錬金術とゆーオカルトの中にしかと盛り込まれている科学(化学)要素を上手く活かした作劇描写は、まさしく本作の"らしさ"を感じさせる部分ですな。47ページの会話とかもそうですが、ただオカルト(=ファンタジー)なだけでは済まさないんだよなぁ。直後の52ページなんかもそうですけど、「賢者の石を核とした存在」とゆーラストの言葉の真意を、ビジュアルで思いっきり描いてくることで分からせるとゆーか知らしめるとゆーか、そんな凄まじい迫力じみたモノを突きつける描写ですよねぇ。コレがまた、ちゃんとした人体解剖の見地に基づいて作画してくるもんだから、インパクトがさらに強まるワケで。ドラマ性とビジュアル性の高い融合を見せてくれる場面と言えましょう。にしても大佐がこれほど苦戦したのを考えると、自身が同じ人造人間ホムンクルスでもあるとは言え、単身でグリードとりあって圧倒してみせた大総統って、やっぱとんでもないバケモノだったんだなー。まぁそれぞれの相性とか、その場に立ち会わせた面子の状況問題とかもあるか分からんが、少なくとも大総統は全くおくれを取ることなく勝ったもんなぁ。

そして後半は、エドを中心にして、砂漠を舞台に描かれるドラマ展開ですか。とりあえずロス少尉が生きてた事については、本誌連載で当時から読んで知ってたのもあるから気楽に一安心ってトコロですけど、くだんの騒動の中で肝心な部分だった遺体の問題をコレまた、簡易人体錬成とでもいうような技術で解消してきたのがギミックとして面白いポイントですねー。さらに加えて、これまで焔の錬金術しか見せてこなかった大佐が、焼死体を"製造"するためにサラッと必要材料などをピックアップしてみせたトコなど、専門外の範囲とはいえ国家錬金術師としての面目を躍如する描写ともなっており、ひそかに印象深い会話シーンと言えます。錬金術の知識を必要な場面でちゃんと引き出して活用できる、またその描写をマンガの中でちゃんと見せるってのは、当たり前のようでいてけっこう難しい作劇ではあると思いますしねー。なんだかんだで大佐ってオールマイティ的に凄い人物ではあるんだなぁ、と。

…なんだか大佐メインの語りになっちまってますが(笑)、それでもあくまで本作の主役はエルリック兄弟であり。アルの思い知らされた鎧に定着した魂という状況の危険性、エドの知るところとなったウィンリイの両親の悲劇、そんな心を揺らす事々の中にあっていま改めて自身に宿る、この旅と戦いに対する強い強い決意! それぞれ置かれた状況は違えど、その意志が目指そうとする"ところ"はまるきり同じ向きだってのを見ると、やはりこのふたりは兄弟なんだと思わされます。逆境やおのれの愚かしさを確かに理解しながら、それでもその心は真っ直ぐに進んで決して止まることを知らない。やっぱ少年マンガの主人公はこうでなくっちゃねー。どれだけ揺れても挫けても進む道は必ず"前"へ、そんな意志の輝きこそが物語を引き立てるのです。



▽自薦名場面 ― 83〜85ページ

 「アルフォンス君、私を置いて逃げなさい」

 「いやだ!!」

 「逃げなさい!! あなただけでも!!「いやだ!!
  いやなんだよ!!
  ボクのせいで…自分の非力のせいで人が死ぬなんてもう沢山だ!!
  守れたはずの人が目の前で死んでいくのを見るのは我慢できない!!」

今回はエド・アル・大佐それぞれに候補が上りながら、見事それを制したのはアルフォンス・エルリック! たとえその意志が単なるわがままなのだとしても、自身の生命すら危機に陥らせようとも、いま自分の手が届く誰かを守るため一歩と退かず闘いに身を投じる、その髪の毛1本ほども揺るがぬ強靱な決意。鎧の出で立ちを前に忘れがちだけど、コレがたった14歳そこらの少年が吐いたセリフなんだからねぇ。時折アルって、い弟としていつかは兄貴エドを越えてその"先"へと到れるんじゃないかっていう、そんな期待を抱かせてくれることがあるんだけど、このシーンはまさにそのひとつなんじゃないかと。いやホント、いつの日か見せてもらいたいもんですよ、エドを越えていくその姿をさ。



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2009/06/05