感想・漫画編。

鋼の錬金術師 11巻

著者:荒川弘

出版元:ガンガンコミックス


錬金術マンガ、第11巻目へ突入。エドワード・エルリックとヴァン・ホーエンハイム、錬金術師の親子が再会し、それはまた新たな真実を解き明かすきっかけを生む。スカー側もシンからの来訪者・メイと会合し、人々の錯綜がさらに物語を彩ります。にしてもこの頃のホーエンハイム、敵か味方か…とゆーか善人なのか悪人なのか分からない描かれ方だよな。ワザとではあるんだろーけど。

さぁ、今巻で、そして物語全体を通しても実に重要なイベント、エルリック兄弟がかつて錬成した母親・トリシャは本当に正しく錬成できたものなのか、故人の人体錬成は可能なのか、その真相が解明されるエピソードが描かれました。そしてその真相は、死んだ者を錬成しようとしてもソレは全くの別人でしかなかった、死んだ人間を錬金術によって再構築することは決してできないという真実だったワケです。そう、死んだ人間を生き返らせるというのはどこまで行ってもファンタジー、作中の言葉も借りる意味で、この世で唯一「有り得ないこと」であり、そしてまたあってはならないこと・描いてはいけないことのひとつなんじゃないかと個人的にも思う所ではあります。現実ではなおさらに、創作であろうともまた、"死"というものは絶対に軽い出来事ではありません。生きるものは死んだら終わり、絶対に元通りにはならない、そういう"真理"だからこそ、どんな事であれ死は軽々しく用いるものではないし、ソレを覆す死者の復活という作劇は気楽に描いて良いものではないと私は考えます。まぁ中にはゾンビものみたいな作品もあるけど、あれらはまた大概において死者が生者に戻るのとは違うとゆー設定になってるし、それぞれの死生観を描いてたりするから、また別物として許容されうるワケですが。

閑話休題。そんなワケで本作でのソレです。エルリック兄弟は亡くした母親に、イズミ師匠は失った我が子に再び会うため彼らを錬成しようと試み、その上で失敗を犯してさらに自身のみに大きなペナルティを負いました。まさにソレが神の領域を侵した罪人の報いだと言わんばかりに。そして今回、その失敗した人体錬成そのものが、目的を何一つ叶えもしない残酷な真相をはらんでいたことが明らかになった。死んだ人間を錬成しても、その結果は求めた相手ではなく全く別の存在を作るだけだという真相。作者本人がたびたび述べる通り、本作はどこまで行っても少年マンガです。漫画家(=大人)が何らかのメッセージを込めて子供に送るために生み出されるエンターテイメントです。そういう存在の中で、「死んだ人は生き返らないし生き返ってはいけない、そのあってはならないことを望んだ者は報いとして罰を受けてしまう」と、そんなこの世は残酷かもしれないけれどソレが正しい世界の在り方だと、本エピソードを通じ読者に向けてそう語りかけます。そして何より重要な点が、その残酷な真実に直面しその意味を全て受け止めて、その上でエルリック兄弟は"真理"を打ち破ろうと新たな決意と共に歩みを進めました。そう、これこそが少年マンガの真骨頂です。世の中の大事なことを子供に伝え、でもだからと言ってソレを前に足を止めては行けないよと、困難に対して負けずに立ち向かおうとする気持ちこそが何より大切で失ってはならないよと、"残酷"を描きながらもそうして"希望"のメッセージを紡ぎ直す本作は、間違いなく少年マンガとしての魅力を確かに持つ作品なのだと思います。現実に対して足を止めるのは大人になってからで充分、子供である間はどんなに無茶で無謀としても理不尽に立ち向かってもらいたいと、やっぱりそう思うんですよねー。

にしても、エドから錬成した母親が違う存在だと言われて、かなりアッサリ受け入れたアルの、あの理解の早さは軽く異様ではあるな。まー「有り得ない、なんてことは有り得ない」ってのを納得する下地(?)は持ってたし、作劇的にもまた長々解説してハナシのテンポを削ぐのもいただけないだろーから、色々と都合上こうなって然るべきってもんではありますが。でも若干違和感を覚えた部分ではあったかなー。あと別に気になったのが、今回ぽっと出てきて速攻殺されちゃった(微苦笑)コマンチのじいさん。イシュヴァール戦で足を無くしたと言ってますが、なんで機械鎧オートメイルにしなかったんだか。身体欠損はソレで補うとゆーのが定着してる本作の世界設定の中、あの手の義足で済まされてるのはあるイミ異質ではありますね。なんか理由とかあったのかなぁ?



▽自薦名場面 ― 122〜123ページ

 「 ――真理は、残酷だが正しい」

 「だがエドは立ち上がった」

 「そうだね。
  あの子なら、いつか真理に打ち勝つかもしれない」

イズミ師匠、エドから人体錬成不可能の確信を聞いて。真理に打ち勝つなんて、それこそ神の領域に触れる行いにも思えるけれど、でもそうあってほしいと、そう挑む姿を見ることを望む、それを描くのもまた少年マンガの醍醐味。大人が子供にそうして願いを託すのもまた然り、さぁあの兄弟はそんな様をいつか見せてくれるのか…?(喜色)



第12巻>

<第10巻


<<コミックレビュー



2010/05/03