感想・漫画編。

鋼の錬金術師 5巻

著者:荒川弘

出版元:ガンガンコミックス


錬金術マンガの5巻目。セントラルを離れ、エルリック兄弟は一路南部へ。イズミ師匠せんせいを筆頭として、新キャラも数名参入。

とりあえず出だしの17話は、コメディ色強めでコミカルな新展開のスタートを切ってますけど。そこから先の内容は、これまでのモノと変わらずの、エンターテイメントを忘れない範囲でのドッシリとしたテーマ性を持った物語が描かれてますねー。や、私は本作のコメディ路線がかなり好きな方ではありますけど、それでもやはり本作最大の魅力はその、重すぎはしないものの深みは充分にあるストーリーにあるってのが本筋ですから。この両者のバランスがイイ具合に取られてるから、このマンガが率直に面白いワケです。

まず見るべきは「生命」の描写でしょーかね。初産の立ち会いを通じて人間がひとり産まれてくるとゆーコトについてエドが改めて感慨を抱いたり、飼い猫の死を経験した子供を通してひとつの死生観をさりげに描いたり、母親の死を通じてエルリック兄弟がかつて犯してしまった禁忌・人体錬成にまつわる過去エピソードに突入していったり。前巻と違い、今回は具体的な死といっても 過去の出来事=過ぎ去った事 であるため、あまり唐突な感やショッキングな展開ではないですが、それでも”死”と、また新しい命の誕生という”生”をこーやって描いてみせる所には、荒川さんの人生経験、畜産業を通して”それら”が身近であったとゆーところに起因する死生観に基づいた描写が、時に生々しく、しかしそれでもエンターテイメント性を損なわず描かれていて、実に見所の強い”物語”として読まされます。

あともうひとつは「絆」の描写ですかねー。前巻で兄弟愛をシッカリ描いた代わりに(?)、今回はウインリィとのそれが多く描かれてますな。およそ人生のほとんどの時間を共有していて、だけれども他人である、エド達にとってもっとも身近な人間である幼なじみの彼女。直接の”家族”ではないけれど、もしかしたら”家族以上”に強い絆を持ち合うウインリィという存在は、当人達が思っている以上に「心の支え」として胸の奥で居てくれているんだと思います。うかつに深く踏み込んだりはしないけれど、その、あるようで実は無いにも等しい距離感を保ったお互いのその関わり方には、読み解くに連れ強い絆を感じずにはいられませんねー。あえて色恋の気配は見せないけれど、そんな簡単なトコロだけにあるワケではない彼らの”繋がり”。緩急付けられた物語の中でそっと挿入されるそれら描写が、本作にまたもうひとつの”深み”を与えているんじゃーないかと思います。



▽自薦名場面 ― 98ページ

 「―――――」

 「――なんでおまえが泣くんだよ」

 「あんた達兄弟が泣かないから、かわりに泣くの」

 「…………バカヤロ」

ふたり、椅子を並べて静かに語る幼なじみたち。ニュアンスなんかの都合で、実際の作中のセリフ割りとは意図的に少々変えていたり。レビュー本編の後半と同じハナシになっちゃうけど、まぁこの、言葉に表すのが難しい雰囲気とゆーか空気感とゆーか、そんなのが心に染みいるように伝わってきて、なんとも言い難いような気持ちを胸に残してくれるワケですよ。決して目を合わせないふたりの様子とか、静かに泣き続けるウインリィの横であくまでもぶっきらぼうな風を装うエドの態度とか。ね。



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2006/12/13