感想・漫画編。

鋼の錬金術師 4巻

著者:荒川弘

出版元:ガンガンコミックス


錬金術マンガ第4巻。新キャラは別にいな……あぁ、ブラックハヤテ号が初登場。

さて、この4巻は、シリーズ序盤のターニングポイントとでも言うべき展開を見せていますねー。まず序盤では、周囲の人々の支えや叱咤を受けて現実に立ち向かおうとするエドと、バリーの言葉に惑わされて現実を見失っていくアルが。中盤では、そんなふたりのすれ違いから生じた兄弟ゲンカを通して、より一層に強くなる絆を。そして終盤では、予想もつかないような展開でもってメインキャラがあっけなく、あまりにもあっけなく死を迎える、と。

いずれも実にドラマチックな展開ですが、なかでも特に最後に取り上げた展開。どれほど味があって読者人気もワリとあっただろうキャラであろうと、物語の展開次第では、まさに現実のごとく一瞬で姿を消してしまう。端々でギャグなどのエンターテイメントも存分に盛り込んでいる本作ですが、その実、本質では厳しい程にリアルな物語を描くという、荒川さんのマンガに対する作劇姿勢みたいなモノを、ここには見て取れるように感じます。いやー、やっぱこの”バランス感覚”は、なかなかのモノだなー。つーか、いま読み返したらたったの10ページであの人は運命を決定づけられたんだなぁ。しかもソレ載ってる15話は、前半はエルリック兄弟のストーリーをやってたワケで。う〜む、濃い。まさにこの一言が似合うエピソードだわ。

ところでこのマンガ、アルの作画は何気にスゴいものがありますよね。や、だってアイツって基本的には表情変わんないじゃん? 鎧の身体だから、顔の造形はあくまでもひとつだけじゃん? なのにデフォルメ顔を除けば、穏やかだったり怒ってたり思い悩んでたりする様は、たとえセリフが無くとも絵の上でキチンと分からせてきてるワケで。まぁ、こーゆー技術あってこそプロの漫画家だ、と言えるのかもしんないけど、それでもその手腕には、ナンチャラの横好きなりに絵が描ける人間として、素直に感心してしまいますねー。



▽自薦名場面
 ― 94〜95ページ

 ガンッ

 「――ずっと、それを溜め込んでたのか?
  言いたい事はそれで全部か。

  ―――そうか」

いやー、さすがに今巻は、どこを選ぼうかずいぶん迷わされましたねー。シーン選出としては、いちおう95ページの3コマ目まで。イヤもう、この時のエドの表情は本っ当に巧みなモノを感じて止まない。マンガ展開としては、このあとに「アルの悩みの答え」が示されることになるんだけど…エドにとってすれば、アルの取った態度と言葉こそが、自分の気にしていた「答え」、怖くて言えなかった・恐ろしくて訊けなかったことの「全て」だったワケで。結局誤解だったとはいえ、それをハッキリと思い知ったときに呟いた「そうか」のひと言。そしてそのときの、残酷な真実を知ってしまった時の悲しさ、と同時に何か胸のつかえが取れたようでもあるあの表情。この瞬間エドの胸中に去来した思いは、どれほどのものだったんだろうな。内容としては残酷な展開なんだけど、この複雑な感情をたったひとコマで表現しきっているこの場面を。



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2006/05/01