感想・漫画編。

D.Gray-manディー・グレイマン 9巻

著者:星野桂

出版元:ジャンプコミックス


エクソシストのバトルマンガ、いよいよ9巻突入。前巻とはうって変わり今回はアレンの再起を中心として、各メンバーも江戸に集結して次なる激戦が待ち受ける、そんな内容。ときにこの巻収録分から、なんか全体の画のタッチが変わってんだよね。"線"の強弱が強まったとゆーか。なんとなく、描き方ってより画材が変わったんじゃないかって気がする。

さて、決戦の舞台に到着したってことで、リナリーらエクソシストチームと、ティキらノアの一族との前哨戦(?)や、千年伯爵達のバックボーンも少々語られたりと、様々な状況・情報が錯綜する作劇を見せてますが。ま、それでもやっぱ今巻の主題目はやはり、主人公アレンの復活劇の方でしょうか。自分の対アクマ武器イノセンスを破壊され、その上で自身の白とも黒とも言えない意志によって再び立ちあがり、フォーを始めとした人達の力添えで先へ進もうとするも結果は一向にともなわず、不透明な状況の中に突如として現れたのはレベル3アクマ。今また目前に現れた敵を前にして彼が気付いたのは、「仲間を守るため」に戦うという意思ではなく、「アクマと戦うということ」に高揚感を覚える・知らず戦いに魅入られてしまっていたという己の潜在願望だった。まぁバク支部長は「アクマに魅入られていた」と言ったけど、ソレと同時にイノセンス(=アクマを滅する存在)にも魅入られているってコトでもあるんじゃーないかと思いますけどね。

それでも今回の戦いの果てにアレンは、アクマも大切だけど、それと同じくらい仲間も大事だという自分の本心に気付くに至りました。アクマを救う/壊すために左手を振るい、人間を救済する/守るために右手を掲げる。その願いにこそイノセンスは答え、彼のもとに舞い戻り、本当のチカラを、神ノ道化クラウン・クラウンと新たに名付けられた"武器"を彼に授けました。この結果、復活までの終着点だけを見る分にはまぁ、強い希望を覚えられる展開ですが、全体から眺めてるととてもじゃないけどそんな明るい気分にはなれねえよなー(微苦笑) ホント、重いよマジで。なんともまぁ7巻での出来事と合わせてまたも灰色グレイな有様です。自分という存在そのものがアクマを壊す武器だ、自分が本当に望んでいたのはアクマとの戦いだ、自分はもう人間じゃないんだ…って、イヤもう、どんだけ陰性な主人公なんでしょうかね、彼という少年は。それもこれも、世界中で自分にだけアクマに内蔵された人間の魂が見える、とゆーコトが全ての起因なんだと思いますが。アクマの中で苦しむ人の姿を見続けて、ソレでただの敵として破壊していくのではなく、アクマを救おう、哀れなアクマを救済するために道を進もう、そう思い至るのは必然なのかもしれません。コレを思うと確かに、彼の左目は呪いの産物だとしか言い様がないなぁ。コレがなければもっと、他のエクソシスト仲間みたいに"割り切って"戦いに身を投じることもできただろうに。この苦悩を一身に背負い、それでも戦い続けるからこそ彼はこの物語の主人公足りうるのかもしれませんが、彼が負わされたその"業"を思えば思うほど、ただひたすらこの有様に哀れみを感じずにはいられません。同情とかでなく、ホントに酷いよなぁ、と。

と、この巻のおまけで本作のアニメ化についても触れられてますが、ちょうどアニメでの今巻分の展開は全体的にマジでクオリティが高かったんですよねー。動画的にも良くできてたんですが、それ以上に、物語をより深く掘り下げる方向で描いていった脚本と、ソレに伴う演出面がバツグンだった。言ってしまえば、原作マンガに対するいわゆる水増し展開ではあったんだけど、そんな事をみじんも感じさせないくらいに物語の再構築が素晴らしかったです。アニメ版の中でも特に白眉の作劇展開だったと思います。


▽自薦名場面 ― 122〜124ページ

 ――…ジ テグ …  愛ジテグレ
 止メデ コイツヲ止メデ  ココダヨダズゲデ
 見エルンデショ? 聴コエルンデショ?
 コンナ姿ニナッテシマッタケレド
 愛シテグレ! 愛シテグレ!! オ前ハボグラノ為ニ在ルンダロウ!!

 「――そうだよ」

レベル3アクマ、その中に囚われた魂を前に。以前にラビが「アイツの見てる世界って地獄だな」と語ったコトがあったけど、このシーンを目の当たりにしてその真意が理解できた気がするな。こんな"もの"を見続けて、ソレが他の誰とも共有できない、自分だけが目の当たりにする"世界"なんだってんなら、コレは確かに地獄そのものだよ。今回は他に、ギャグシーンかあるいはもっと特異なトコで候補が多数あったんだけど、まぁ思案の果てにこの、アレンが目にする世の真実を選抜。



第10巻>

<第8巻


<<コミックレビュー



2008/07/28