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感想・小説編。

猫の地球儀その2 幽の章

著者:秋山瑞人

出版元:電撃文庫

『夢』を追い求めた2匹の猫のSF物語。その下巻、完結編でございます。

本作を読み終えて、まず感じたことは、「この話が上下巻構成で完結しているのは、あらゆる面で”正解”だなぁ」というコトでして。まず上巻で起・承を、下巻で転・結を語る、という作りになってるおかげで、物語の内容があまりゴチャゴチャせずに、比較的スッキリと描かれてます。上巻では各キャラの紹介的な流れと設定世界の解説的な内容に注力し、下巻ではキャラそれぞれの”動き”を見せつつ物語を終わらせていく、こーゆー流れの組み方は、やはり上下巻だからこそ出来た構成でしょうね。これがもし1冊完結の小説だったら、これほどウマくハマらなかっただろうと思いますから。んでわ逆に、複数巻の作品だったら……もしそうなっていたら、今度はまた物語の結末を、納得…というか、受け入れがたくなっていたでしょうねぇ。なにせワタクシ、基本的に「ハッピーエンド至上主義」でして。読み切り作品だったら、そうでなくても気にならずに済みますけれど、長編の物語ともなればさすがに、「悲しい結末」ってヤツがイヤになって仕方無くなってしまうワケでして。そーゆー個人的な好みの問題から見ても、本作の「決して幸福とは言えない結末」を許容するには、この上下巻での完結という形式が、これまたキレイにハマってくれている、と。上下巻だから作り得た物語に、上下巻だから納得できた結末。やはり本作、2冊完結でコレが”正解”なんだよなー。

さて、肝心の物語自体への感想ですが。この作品の読書中、たびたびMr.Childrenの『Tomorrow never knows』が脳裏を巡っていました。なんか、本作の内容にすげぇ似合ってる気がするんですよねー。

償うことさえ出来ずに今日も痛みを抱き
夢中で駆け抜けるけれどもまだ明日は見えず
勝利も敗北もないまま孤独なレースは続いてく

自分にしか価値を見いだせない夢を追い求め、”その場所”だけしか目に見えないまま生きてきた、焔と幽という2匹の猫。だけどその夢のために、多かれ少なかれ他の誰かが迷惑を被っていて。それに気付いてもなお、それ以外の生き方ができないから、だから突き進むことを止めない、止められない。

いまより前に進むためには争いを避けて通れない
そんな風にして世界は今日も回り続けてる

出会うべくして出会った2匹の”天才”。彼らはお互いを確かに理解しうる本当の”友達”になることができて、だからこそ対立するほか無かった。もしも彼らが違う出会い方をしていたら、そこには違う結末があったのかもしれない。でも結局それは絵空事でしかなくて…悲しいけれども”必然”として彼らは、決別する以外の道を選べなかった。

優しさだけじゃ生きられない
別れを選んだ人もいる
再び僕らは出会うだろう
この長い旅路の何処かで

決別を経て、再び2匹は孤独になった。互いの間にいたはずの”あの子”も、遠い何処かへ行ってしまって。きっとこの結末は、彼女の有無に関わらず、たどるべくしてたどった道なのだろう。そうして焔はたった1匹トルクに残り…幽は、最後のスカイウォーカーは地球儀へ向かった。焔という友達と、クリスマスという相棒との、果たせるか・果たせたかどうか分からない約束を叶えるため。「ぼくはここにいるよ」という合図を伝えるために。

すべての猫の魂はやがて地球儀に赴くのなら、幽は、焔は、かぐらは、いつかまた地球儀のどこかで再会できるのだろうか? …その答えは、本作では描かれていません。きっと描くべきことでも、また無いでしょう。ただ確かなことは、そんな空想を描く余地がこの物語にはあって、そんなことを思わずにはいられないくらいに、悲しくて綺麗な結末を迎えたという事。溢れ出しそうなほどの『夢』を持ってしまった、悲しい2匹の天才が出会い別れるまでを描いた、答えの無いサイエンスフィクション。猫の地球儀は、そんな残酷だけれど素敵な終わりを描いた物語なんだと思います。



▽自薦名場面 ― 219ページ

 そして震電しんでんは、もうここから先へは進めないというところまでたどり着いた。

 展望台だった。

 震電は、浮遊物の間をすり抜けながら展望台の中を横切り、窓に両足をそっと突いて身体を止めた。

 窓の外には、地球儀の青があった。

 針金は、窓の外をまっすぐ指し示していた。

チョイとネタバレ気味ですかね?、下巻の自薦場面はココ。どこまでも探して道をたどった先、ダウジングの針金が指したのは、トルクを離れたその向こう、猫がいつかゆくという地球儀だった。窓の外を見つめる震電と、その向こうで静かにたたずむ遠い遠い地球儀。寂しそうな震電の背中と、美しく浮かぶ青い地球、その光景が鮮明に脳裏に浮かんで、悲しいけれどとても好きなシーンです。



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2005/06/30