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感想・小説編。

風よ。龍に届いているか(下)

著者:ベニー松山

出版元:創土社


避けられない「運命」へと立ち向かった冒険者たちの物語、その下巻、完結編です。本編とは別に、これまた『ウィザードリィ』世界の歴史の一端を描いた短編作『不死王』も収録。まぁ、『ウィズ』を事実上知らない私みたいな読者には、あんまし関係ないアレですが(笑)

ひとまず本編の感想をば。上巻はまぁ、大雑把なまとめ方をすれば基本的にただの山登りだったワケですが。(とは言え、ソレが面白く描かれてたのも事実だが(笑) こちら下巻からはシッカリと、ダンジョンに巣くう数多くの魔物、強大なブラックドラゴンや迷宮の守護者たる侍将、梯子山スケイル内部で蠢く妖獣ゼノ奥深くで待ち受ける邪悪な「真の敵」などなど。それら立ちふさがる者を相手に、ジヴラシアたち冒険者が持てる技能を存分に活かして戦いを繰り広げるとゆー、「冒険物語」としての魅力が余すところ無く描かれています。それこそまさに、『ウィズ』の小説化作品としての本領発揮といった感じでしょーかね。そりゃ一応、上巻でもバトルシーンはいくつも描かれていましたが、こちら下巻はより強力な数多くの装備、伝説級の武具を携えての戦闘と相成るワケで。RPG的なパワーアップの要素も加わって、本作の「ゲームらしい内容」がより強まって楽しめるようになっています。

などと言いつつ。本作の真の魅力はそーいった、ゲーム的な描写を楽しめる冒険物語、ではありません。この作品の真実の姿、それは正真正銘の意味での「生きる」と言うことを、そして陳腐な意味ではまったく無い「愛」を描いてみせた物語なのです。

「生きる」とは、「生」とは一体何なのか。人は何のために日々を生き続けるのか。それはたとえば、大切なものを手にするためだったり、乗り越えなければならない何かを克服するためだったり、恋いこがれたその相手と結ばれるためだったり、おのれの中にある欲求を満たすためだったり…それは人それぞれ千差万別のものでしょう。ただひとつ確かなことは、「生」には何の意味も無いのにも関わらず、人間には何か目的がないと「生きて」いくことができないのだという、単純にして残酷なまでの事実。本作の登場人物たちは皆、そんな様々な”目的”を胸に秘め、大破壊カタストロフィーを防ぐための戦いへと挑みます。その戦いを通して描かれるのは彼らの生き様、つまり「生」へと対峙するその姿。

そして「愛」とは何なのか。人はなぜ誰かを愛するのだろうか。この言葉は、「想い」と言い換えても良いでしょう。恋する相手、人生の伴侶、大切な家族、かけがいのない仲間、無二の親友…誰かが誰かのことを心に留めるとき、そこには常になんらかの「想い」があります。確かなのは、それぞれそのカタチは違えど「想い」は人と人との繋がりのなかで必ず生じるものであり、人間が生きていく以上決して想い無くしていられるハズが無く、逆に言えばその「想い」が無い限り人は生きてはいけないのだという事。本作本編、そして短編の『不死王』でもまた、熱くも激しい戦いの物語を通して、そんな「生」と「想い」とを描いていきます。

本作の主人公であるジヴラシアもやはり、自分自身でも明らかにならぬままに、「生きる」ための目的を胸に秘めた人物のひとり。ダンジョン奥深くでの仲間との再開、その瞬間に気付いた自身の”願望”とは、「誰よりも強くあること」だった。本作の結末の中で描かれるものは、彼の抱える内なる願望との対峙であり、過去との決別であり、新たに歩む生きる道であり、そしてただひとり愛する人のもとへと帰る、その姿。それはすなわち、ジヴラシアが、否、ジヴが『活かす風』へとなるまでを描いた物語。

人には誰しも、「生きる」ための何かが、「愛」する誰かが、必ず必要なのだと思います。ジヴは自身の内に秘めた願望との決着を通して、未来へと生きるためのものを手にし、ディーのいる場所に戻っていった。彼が果たした自分とのひとつの決別、それは他の誰かの想いがあって初めて叶ったことであり、そうすることで新しい道へと進めた。だから本作は、無骨なほどに「生きること」を描いた物語であり同時に「愛」を描いた作品であって、それゆえ実に読み応えのある面白い作品なのです。世界の破滅を前にした冒険者が、いくつもの戦いを通して生と愛とに向き合う様を描いた物語。それがこの作品の本当の姿なんだと思います。



▽自薦名場面 ― 305ページ

 ”過去を断ち切りな。つまらねえ執着を捨てて、これから生きることを考えるんだよ。俺のようになりたくなきゃ、な”

 (中略)

 ”ひひ、世話をかけやがる。だがよ、最後にお前を救えるんなら、百年も幽界で迷い続けた甲斐かいがあったってもんさ”

 ハ・キムは笑い、そして真摯な響きを持つ言葉で言った。

 ”活かす風になりな。死んでいった者のために殺すんじゃねえ、死んだ者のために活かし、生きている者のために生きるんだ――”

 その言葉が、ゆっくりと意識の隅々に染み渡っていく。

 ハ・キムの思念が消えていくのが判った。それとともに、俺の矛盾の中心にある餓鬼ガキの俺も消失していく。

 凍りついたときが流れ出した。

正直、今回は選出にムチャクチャ悩んだけど、あえてひとつだけ取るならココ! 本編クライマックス、ジヴが過去との決別を果たしたその瞬間。それは、ホビット忍者ハ・キムの言葉によってこそ果たされた決別…だけど、彼がジヴに届けたかっただろう願いは確かに真摯で深いものであり、その「想い」があったからこそ、それが受け継がれていったからこそ、未来は紡がれたのだと思うのです。…てゆーかこの場面、よくよく見てみたら上巻のと似たよーな描写だよな(笑) イヤまったく、オレってつくづく”こーゆうヤツ”に弱いねー。



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2006/03/25