感想・小説編。

そして彼女は拳を振るう

著者:松原真琴

出版元:ジャンプJブックス

 ……ここまで何も言わずに読ませておいてなんだが、やはり皆さんには私の特異体質について説明しておこうと思う。

 名前は園原八重そのはら やえ。ばあさんみたいな名前だが、一七歳で高校二年生だ。私の家はとんでもなく昔から続いている名家で、この家の長女は例外なく特殊な能力を備えて生まれてくる。それが、霊媒としての能力だ。

14ページ 八重の自己紹介より


作品紹介用の冒頭シーン選び、実は今回のは段落を途中で切ってたり。なんかチョットね、全部載せない方がかえってキリ良いかなー、とか思ったのですよ。ソレはさておき、松原さんの第2弾作品、通称『彼女』シリーズの1巻・そして彼女は拳を振るうのレビューといきましょー。

本作、内容を簡単に述べると…まぁあとがきでも作者本人が言う分には、「全然怖くない幽霊の話」とゆーことなんですが。確かに、幽霊だのなんだのがストーリーの基本設定で、そのくせ全く怖い要素がまったく無い、ってのはありますけど。自分なりの見方で本作を語るなら、「やったら地に足がついた幽霊モノ」といった感じかもしれませんなー。地に足がついたってゆーか、変に律儀なくらい現実的とゆーか。(幽霊モノの作品のクセに、な(笑)

なんせ、元東大生の美果みかさんを憑依させてやらせることときたら期末テストの代行だったり、バンドマンの幽霊・十郎じゅうろうをひろってきて最初に考えたことが印税のことだったり。そもそも主人公の八重自身が、何よりも平穏な生活を望んでるとゆー、ミョ〜なトコでファンタジーとはかけ離れた考え方の娘さんですしね。その他周囲の人々や肝心の幽霊たちにしたって、幽霊やら霊媒やらゆー非現実をさておけば、モノの考え方はいたって普通のパンピー的な思考なワケで。幽霊が存在していてかつ幽霊を取り巻く非日常の中で、あくまでも普通の人が普通に日々を過ごしている。そんな中で描かれる、松原さんの作品らしい、登場人物同士のアットホームな優しさで包まれた互いの交流。総じて見ると本作、「怖くない幽霊モノ」ってよりは、「幽霊モノの体裁で作られたファミリーコメディ」と言った方が、より正しいのかもしれませんねー。幽霊やそれを取り巻く人々――園原家やAUBEオーブメンバーも含めた――それらを通して描かれる、(幽霊のイメージと良い意味でかけ離れた)暖かな雰囲気のファミリーコメディ。彼女シリーズとは、まぁそんな作品なんだと思います。

にしても。この小説、作者の趣味とか本気で丸出しだよなぁ(注:誉め言葉) 趣味ってよりは、生活臭か? 芸人しりとりでリットン調査団だのスピードワゴンだの言ってるし、コンビニ行ってメープルパンだのシュークリームだの買って食ってるし(食ってるのは憑依した幽霊だが)、フツーに『世界ふしぎ発見!』だの『アッコにおまかせ』だのっつー単語が出てくるし。他でも、モノのたとえにイキナリ『聖闘士聖衣セイントクロス』とか出してくるしなー。逆に分からん読者の方が多くねーかオイ。特に最後。まぁ、そーゆー部分もひっくるめて、本作に地に足付いた現実的な印象を、本作に抱くワケなんですけど…普通の小説で稲川淳二的とか言わねぇよなー。いやホント、自分の趣味を作品に持ち出しすぎ(笑)



▽自薦名場面 ― 171〜172ページ

 美果さんと十郎と一緒にいると、なんだかんだで常に会話している状態だから、それがないと、不思議なくらい静かだった。隣に座っているたもつさんも、撮影に疲れたらしく、静かに目を瞑っている。同じ東京なのに、森を通り抜けて吹いてくる風はひんやりしていて、微かに緑のいい匂いがした。広い校庭の端から、わたるの話し声にスタッフ達の笑う声が重なって聞こえてくる。……いつでもこの状態を再現できる機械があるなら、臓器の一つや二つ手放してでも手に入れたいなぁ……などと思いながら、私は撮影が終わるまで、穏やかな時間を楽しんだ。

ひっそりと静かな時間を過ごす園原八重の図。まぁなんだ、こーゆー娘さんです八重は(笑) もーチョット、普通に良いシーンもいくつかあるけど、今回はあえて八重のキャラをウマく書き出した部分を選んでみたり。とはいえ、彼女の気持ちも分からなくは無いですけどねー。そーゆう、平穏な中にいつも浸っていたいってゆー考え方。臓器売ってまで得たいモノかどうかはさておき、な。



第2巻>


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2006/03/29