感想・小説編。

人類は衰退しました3

著者:田中ロミオ

出版元:ガガガ文庫

衰退済み人類こと人間さんと、新たな地球代表種こと妖精さんとで繰り広げられるのんびりSF、3巻目。中編2本が基本的な収録スタイルの中、今巻はまるまるエピソード1本になっております。にしても折り込みカラーイラストの注意書き、こんなこと書いてる小説は初めて目にするかもしれんな…(笑)

さて長編の今巻、中盤までのポイントになるのが「妖精さんがいなくなるとどういった状況になるのか」とでも言うような、作品のメインキャラ(?)をあえて外した中でのお話なワケですが。結論だけ見ますととにかく現実的とゆー(笑) これまでのデタラメ妖精さん時空から解き放たれた瞬間に訪れる、現実世界の実に過酷なことと来たら。62ページ意向のふざけまくった解説が、途中まで読むにつれむしろ懐かしさすら覚え出すこの有様。そして逆に、妖精さんが戻ってきた直後から復活するこの理不尽世界とゆーギャップ、ここに改めて本作品世界の面白さが垣間見える部分は大きくあるようにも感じますねぇ。サバイバル状態の過酷な描写あれこれも、いちど終わればある種のシリアスコメディのようにも思えてくるのはやはり、妖精さんがデタラメな物語環境を生み出すという"お約束"が読者側にしっかり浸透しているからとも言えるワケで。あとはまぁ、意外とタフ…とゆーか図太い神経してる「わたし」による一人称スタイルである事も影響あるのかなぁ? 実際問題あの遭難はかなり大変でハードな状況のハズなんですが、どっか安心とも違うけどそんな感じで読み進められるのは、これら要素があるためのように感じもします。

あと後半のポイントになるのが、今巻のゲストキャラであるP子さん&O太郎さん(※両方とも仮名)でしょうね。あえて本レビュー上では隠しておきますが、彼女らふたりの正体についても色々とトンデモSF的でかなり面白かった部分です。なかでも特に、まぁちょいとネタバレになっちゃいますけれど、実際の宇宙開発史の謎でもある「パイオニア・アノマニー」についての"解釈"は、正統的なSFとしてややロマンチックなニュアンスも含まれていて、個人的にけっこう気に入ってたりしますねー。やっぱなんだ、本作は強いてそーゆうSFテイストの強い物語では全くないですけど、個人的にSFにはこういったロマンが感じられる作劇だとかを好むのもあって、このオチ(?)は地味に好きなんだよなぁ。お話の締めでは、あれやこれやで「わたし」が少々シンドい目にも遭っちゃってますけど、でもメインの登場人物全員にとっては基本的にハッピーエンドとなってることもあり、読後感はとてもグッドです。とゆーかある意味、設定だとかをちょっと変更してやればそのまま読み切りSF作品として通用できそうなシナリオにも感じられるのが、この巻の興味深くも面白いところでして。ホント、独立した1本の小説として充分作れる物語設定ではあるよなぁコレ、それを本シリーズに組み込んだからまた面白くなったと言えるのか、ハテサテ。

それにしても「妖精さんは電磁波を嫌う」とゆー要素。地球文化上から電磁波が姿を消したから彼らが台頭しだしたのか、もしくは電磁波文明が進んだために元々地球にいた彼らが人間の前から姿を消していたのか…? 本作の別に明かされなくても困らない隠れ設定だと思いますが(笑)、真相は果たしてどうなのか、少しだけ興味深くはありますな。



▽自薦名場面 ― 316ページ

今回はあえてシーン抜粋無し。むしろ抜き出して書かないことにこそ私の意図もある、とゆーか抜粋しちゃったらある意味もったいない。この巻を通した中で、むしろシリーズ既刊全体を通してでさえ、コレを上回るインパクトはかつてあっただろうか!? もーマジで、ハートフルなお話のオチとかそれら感動要素を根こそぎ破壊して君臨せんばかりのこの衝撃度ときたら!(爆笑) もっと言うと冒頭20ページとどっち取るか、むしろ両方とも選出しちまおうか少し悩んだんだけど、やっぱ最後のサイゴにこうきたとゆーこのインパクトを取って。しっかしこの挿絵は本気で絶妙な味わいを醸し出しているよなぁ…



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2010/04/26