感想・小説編。

人類は衰退しました

著者:田中ロミオ

出版元:ガガガ文庫

全員がやんちゃな男の子のような印象。

平均身長一〇センチ。

"彼ら"が何者なのかって?

そう――

あのちんまい方たちこそ――


地球人類だったりしますね、このごろは。

75ページ 「わたし」の妖精さん観測模様より


なんでもこのシリーズ、同レーベル内では売り上げダントツの作品らしく。聞いたハナシだとケタが違うとかなんとかだそーです。昨今なにかと勢い付いてるライトノベル業界ですが、そーした中での成長株と言えるのかもしれませんね。サテハテ、なにせ私でも知ってるくらいだ、PCゲーム業界ではずいぶん名の通った著者による、まだ起ち上げて間もないレーベルからの小説処女作品、人類は衰退しましたのレビューをおっぱじめるとしましょ。

とまぁ、「ゲームテキスト」という面では達者な人物ながら、「小説」とゆー形態についてはコレが最初となるワケなんですけど。方々のレビューサイトでも語られてるとーり、初小説になるとはにわかに思えないほど手慣れたテンポ・作劇の内容になっていますね。だいたいこーゆー畑違いの"場"に出てくると、「物書き」としての面では同じようでありながら何処か慣れが薄いよーな、多少の違和感が読んでみて出てしまったりするのが大概だったりするのですが、本作にはそーいった部分がサッパリありません。この辺、田中さんが器用(多才)なためなのか、それとも編集サイドのサポートの良さがあってのものか。まぁ私の雑感だと両方って気がしますかねー。確かに田中さん、まさしく才能を持った作家さんだと思いますが、ソレだけでこんだけ"慣れた"小説を書けるとも思いにくいですしね。

…おや、なんだか作者分析みたいな感じになってしまったな。気を取り直してナカミの感想をば。本名不明の「わたし」(明記されてないけど、血筋とゆーか人種的にはたぶん日本人)の一人称形式で語られるお話なんですけど、上記、特に最後の行の言い回しなんかでも分かるとーり、どことなく飄々とした性格の彼女によってつづられる、捕らえどころがないっつーかもう捕らえようのない現・地球人類こと妖精さんのハチャメチャ具合、その掛け合いを中心にして描かれる物語展開が、イイ具合の"味"を生んでいてソコが絶妙に面白いのです。ですます調で丁寧な物腰、を演じながらワリと過激であぐれっしぶ(←意図的にひらがな)な性格の彼女も面白いんですが、その彼女を通して描かれる妖精さん達の模様が、本作の持つ独特な魅力に一層の輪をかけております。なにせこの妖精さんという存在、なんつーのかあらゆるイミでデタラメでありテキトーでありユルい。旧人類であるヒトの技術を遥かに超越した科学力を有していながら、もうホント、なんかテキトーに使ったり使わなかったりしてますからね。むしろ妖精さん、自分らが超科学を保有してること自体分かってないんじゃなかろーか。

また本作、物語設定も独特で面白かったりしてます。タイトルにもあるように地球人類としては引退宣言をして旧人類となった人間の歴史状況を始めとして、でたらめファンタジー生命体こと妖精さんの生態、人間の文明を紐解きつつ示される妖精さんのヒト模倣活動などなど、SFとしてのキチッとした土台を垣間見せながら、取りたててソコに注力するでもない、作劇のバランス具合がなかなかヨロシイ。なんでヒト人類は衰退したのか、地球人類としての引退をいつどのように宣言したのか、また妖精さんの超科学や不可思議な生態に関しても、本作読む限りではどーもキチンと理屈を考えているような感じなんですが、あえてソコに踏み込まず、かといって別に何も語らないワケでもなく、SFモノとしても不可思議・不条理モノとしても面白い感じのバランスで描いているのがイイ具合です。独特の語り口による、独特の不可思議新人類の有様を、独特の舞台世界で描く。探せばどこかにありそうで、でもなかなか見ない魅力に溢れた奇妙珍妙まかふしぎな物語、本作はそんな作品なのです。

ま、シリーズの大雑把な感想はこの辺にしといて、とりあえず今巻各話の感想にでも移りましょーか。なにせシリーズ1巻目ですからねー、収録の『妖精さんたちの、ちきゅう』と『妖精さんの、あけぼの』の両編とも、各種世界設定に関しての簡単な解説をしつつお話を進めてる、みたいなトコがありますかねー。妖精さんの生態なんかも、集まるとトンでもない超絶テクノロジーを発揮しながら、ソレに強いて執着するコトもなく、"ブーム"が過ぎたら廃れてくのもあっという間。とは言えソコに物悲しさとか緊張感だとかは一切ゼロ、なすがまま、自分たちの思いつきが向くままにメトロポリスをひと晩で建造しただけです、みたいな。彼らは想像を絶するほどスゴいけど、そこに意味だとかを見出そうとするのはやるだけムダですよ、という妖精さんに対する基本的常識をさっそく読者に与えている印象ですな。



▽自薦名場面 ― 197〜198ページ

 「いきなり第三期スタート?」

 「ではなくー」 「うーん」 「どーせつめーしたらよい?」 「さいしょって、どんなだた?」 「さー?」 「わすれたなー、それー」 「ぼく、おぼろげになら……」 「いってみー」 「たしかー、さいしょはー、せかいじゅのねもとでごろごろしててー、そんでー――」

 その妖精さん、とんでもない言葉を口にします。

 「こーごーせーせーげんかくせーぶつ、つくたんだた」

 「はい?」

 光合成性原核生物……と聞こえたような?

 「おりがみでつくれるかなーておもて、つくたら、できたです」

 普通はできないはずなんですが。

妖精さんの、すーぱーてくのろじー(←章題っぽく) 補足として説明すると、折り紙と輪ゴムで造られた紙製ミニチュア恐竜のコトを訊ねたら、帰ってきた答えがこんな状態、とゆー。折り紙ひとつで地球生命体の進化の歴史さえ再現してしまう、それほどの技術を駆使できるのが彼ら妖精さんなのです。うわースゴいですね!(真顔) つーか「せかいじゅのねもとで…」って、何をサラリと生命創造の神話にまで触れてんですか(笑)



第2巻>


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2008/04/27