感想・小説編。

ダブルクロス・リプレイ・オリジン 未来の絆

著者:矢野俊策

出版元:富士見ドラゴンブック


Yours Ever 【ユアーズ エヴァー】
 1:手紙の最後につける定型文のひとつ。主に親しい友人に対して使う。意味は、「いつ 
   もあなたの親友である」。

172ページより


レネゲイドウィルスによってもたらされた超常の力を持つ者、その総称・オーヴァード。変容した世界の裏側で人知れず戦う少年少女U G チルドレンの物語を描いた、TRPGリプレイ文庫・DXリプレイオリジンのシリーズ最終巻です。

てなワケで、隼人と椿のふたりをメイン主人公として続けてきた本シリーズですが。その最終巻は存分なまでのスケールを持ったシナリオと、コレまで重ねてきたストーリーの積み重ねによる様々なネタを注ぎ込んだ、まさに完結編と言うに相応しい内容でシリーズを締めくくってきてくれます。まず第7話では、シリーズ1巻のヒロインキャラである七緒ななおを再登場させることで、コレまで続いてきたストーリーの”出発点”をプレイヤー達(まぁ主に隼人に、なのだが)に改めて確認させ、いよいよ終結を向かえる物語をある意味で振り返るよーな構成になってます。そして続く最終話は、既刊同様に収録前半とストレートに繋がった構成でありつつも、ソレまでの7セッション全体を下敷きにした長大なネタを組み込みつつ、やはり長編ストーリーに相応しいとも言える「世界の全てを巻きこんだ”戦い”」を描くとゆー。この辺のスケールの広げ様は確かに、完結編に足る大がかりっぷりですし、何よりソコのネタがDX2のシステムとしてルールをある程度以上フォローしたカタチで組まれてるってのが物凄い。モチロンこの部分、GM本人も述べてるとーりルールの拡大解釈にもほどがあるようなトコロはあるんですが(「秘密兵器」・「賢者の石」・「戦闘用人格」をバラで取り扱ってるのは”意図的な間違い”のハズだしなー)、それでもそのネタを「ロイスの否定」とゆーたったひと言でまとめ上げてしまっているのは、もはや見事なまで。「システムをある程度まで改造して取り扱うのはGMの特権である」、とゆーのがTRPGのゲーム的な特性だとするならば、マスタリングの一例として実に素晴らしいやり方だとさえ思います。当方、本シリーズを毎回「良いリプレイ文庫」と評してきましたが、最終巻でもその魅力と面白さのレベルは変わらず、いや、それ以上に高い完成度でまとめ上げていますねー。

さてさて。本シリーズ、作品としては言うまでもなく、あくまで「TRPGセッションの内容を編集した読み物」、よーするにリプレイ文庫なワケですが。そーであると同時に、少年・少女が成長していく様を描いた、そんなひとつの物語でもあったというのが、紛れもない所でしょう。高いテーマ性を持たせ、ソレを存分に楽しめるようにするためのシナリオを組み上げてきたゲームマスターと、そのGMの”試練”に真っ向から挑み、時にその意図を上回るようなロールプレイでもって作品を完成させていった各プレイヤーキャラ達。テーブルトークRPGという特殊なアナログゲームを楽しむ上で欠かせない、遊び手であるGM・PC両者らのプレイ意欲と双方の協力意識とが高いレベルでかみ合うことで実現された、計8回の素晴らしいセッションと素晴らしいストーリー。それがこのオリジンシリーズを、リプレイ文庫としても物語としても本当に面白い作品にしてみせた要因だったのではないかと思います。


変貌した世界の中、ヒトを越えたものオーヴァードとなった事で、望む・望まざるに関わらず背負う言葉・裏切り者ダブルクロス。だが、たとえ明かせぬ”罪”を身に宿そうとも、変わらぬ日常に生きる人々のためにそのチカラを持って戦う者がいる。高崎隼人と玉野たまの椿、チルドレンと呼ばれた彼らは、いくつかの戦いを経て、おのれの行き先を自分たちで決めてゆける、そんな”未来”を掴み取る。だからこれは、そこに到るまで描いた物語。『未来の絆』を手にするために、自身で世界を変えるために――



▽自薦名場面 ― 339〜341ページ

 「じゃあ、帰ろうぜ」

 チルドレンの少年は、肩をすくめて言う。


 「うん。……みんな待ってるしね」

 チルドレンの少女は、うなずいて歩き出す。


 そして―――。

セッション本編の実質的なラストシーンから、さらに続く見開きの挿絵と合わせて選出。ホントいうと最後の挿絵ページのみでも構わなかったんだけど、いちおーセリフのやり取りも場面としてひとつではあるので、ね。なんつーのか…コレまでの各巻ラストって、ストーリーの展開もあったからどーしてもツラそうな表情を浮かべたラストが多かった、んだけど、そんな今までを経て最後に、何の迷いも後悔もなさそうにタダ真っ直ぐ前だけを見て並び歩くふたりの姿が、最高のカタチでシリーズの締めくくりを描いてくれてて、ソレが本当に心に残ってくれるとゆーか。きっとこの先も幾多の苦難はあるのだろうけど、でも必ずその試練に立ち向かっていくだろう、そんな期待を感じさせてくれるふたりの”未来”に――最大限の幸よ、あれ。



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2007/04/12