感想・小説編。

武装錬金ブソウレンキン //ダブルスラッシュ

著者:黒崎薫

出版元:ジャンプJブックス


最近のジャンプJブックスって、コミックスサイズの”版”で出すコトが増えてきたんだけど、マンガ原作のノベライズだとその傾向が更に顕著で。つーか本作、最初書店で見た時マジで小説だと気付かなかったぐらいだし(笑) サイズはおろか、表紙デザインでさえコミックスを踏襲しまくってるからなー。とにかく、全10巻のマンガ・武装錬金に続く、第11の作品ってコトで銘打たれた本作、『//』のレビューを開始しましょーか。

さてさて、そーいったワケで本作は、時系列的にも完結10巻の後日に起こる出来事を描いた、完全な番外編としての小説版でして。とりあえず、ノベライズ作となるとキャラクター描写などのズレがたびたび取りざたされるトコロですが、黒崎さんがストーリー協力として原作に参加していたこともあって、カバー折り込みにある「本物の『武装錬金』と思って」とゆーコメントのとーりに楽しめるのが、まず大きなポイントではないかと。人物表現以外でも、原作では諸事情もあって説明できてなかった、アナザータイプ武装錬金などの各種設定についてや、マンガでの描写からふくらませて描かれる各キャラの立ち回りなどを、文章での細かい表現がしやすい小説とゆースタイルでもって、存分に楽しませてくれてます。こーいった部分でなんつーのか、ノベライズで改めてまた武装錬金を楽しんでもらおう、みたいな作者側の意図が感じられて、ソコがまた好感触なのですよ。

んで、肝心のナカミの物語ですケド。コレがまた、原作でちょこっとだけ描かれた、照星部隊の7年前の事件をメインに据えた内容でありまして…原作読者ならご存じのとーり、過去の事件ってのが任務失敗で集落まるごと壊滅・生存者はわずか1名のみとゆー、かなりドギツい結末であることはすでに分かってるワケで。C.ブラボーと名乗る前の防人サキモリや火渡、千歳チトセのかつての様子や互いの関係、まだ戦いとまったく無関係だった幼い斗貴子(←今回はさん付け無しなのかの無邪気な姿など、物語の大部分は気楽にそーいった描写を楽しめるんですけど、やっぱりラストは最悪の事態へと行き着いてしまうのがなんとも。とりわけ戦団の3名はそれぞれ、努力さえ惜しまなければ世界もきっと救えると思っていたのに、結局女の子1人しか守りきれなかった末に名を捨てた防人、強大なチカラを持つ自分には世界を救う義務があるとさえ思っていたのに、その才能があっても島ひとつ守りきれないという”不条理”を痛いほど噛みしめた火渡、そして安易に核金を頼りにしてしまった事から生じたミスにより、強烈なまでの罪悪感と共に自身の感情をオモテに出すことがなくなってしまった千歳と、赤銅あかがね事件を通して受けたそれぞれの絶望がどのようにして生まれたモノだったのか、ソコをシッカリと描いているのが、読み応えと同時にツラくもある部分と言いますか。

でも、そーした後味の悪い事件を昔語りとして取り上げ、その前後をコメディタッチな現在のカズキたちのにぎやかな日常風景ではさみこんで描写しているおかげで、全体の読後感はコレでスッキリ楽しいままに読めたりするのが、なかなかの構成でもありますねー。過去の事件だけで描くと、どーやってもバッドエンドなだけで終わってしまいますからねぇ、ソコを払拭させるのには実に上手いやり方だと思います。

原作の補完を行いつつ、独自のアプローチも加えながら新たに構成された、ノベル形式による番外編としての本作、しっかり及第点の内容ではないか、と。ま、カズキ&斗貴子さん両名の出番が少ないのは、仕方無いとは言えやはり寂しいトコかもしれませんねー。アニメ版も好調なんだし、ノベライズ第2巻も出してくれないかなぁ。



▽自薦名場面
 ― 223ページ

 「お、ゴーちん、見ろよ。パピヨンが月に映えて、きれいだな」

 「月はきれいだとは思うが、パピヨンがきれいだとは思わないぞ」

エピローグ、ゴゼン様と剛太のやりとりから。ウン、なんつーのかさ、レビュー本文でも言ってるけど、本編の内容だとどーにも後味の悪い展開しかないもんで、そーゆー理由もあって他から印象深いシーン選んだら、マジでココがトップに上がってしまったとゆーか。いやホントに、全体的にもイチバン気に入ってんのがこのやりとりなんだよなぁ。冷静に振り返るとどーかと思う会話なのだが。



第2巻>


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2007/03/25