感想・小説編。
トライ・クロス! 1 神は南より還る
著者:友野詳
出版元:スニーカー文庫
陸に住むものは、その都を、三つの大地が集う地と呼ぶ 1ページ 本編前の扉ページより
そんなワケで、本作は人から紹介された作品でして、そのときに「友野節全開、みたいな小説」とかそんな寸評をもらったものですが。まさにその言葉通り、友野さんの文章テイストが全力全開で書かれたような物語、それが本作の内容です。ソレはまぁ、言い換えればオレの好みがフル回転してるよーな物語とも言えるワケで(笑) もーね、出だしから途中で辿っていく展開、そしてクライマックスに到るまで、これがもうノンストップに目を惹く内容。とりわけこの1巻は、その傾向がベストなまでに出ております。ちょっとした騒動から慌ただしくも開始するストーリー、騒動の最中で始まるボーイ・ミーツ・ガール、知れず忍び寄る邪悪な陰謀の影、絶体絶命のピンチをぶち破るカタルシス抜群の逆転劇、呼び起こされた巨大な敵と真っ向激突するスペクタクル満載のクライマックスと、全編通して止まることを知らないかのよーなスピード感で迫る、まさに怒濤の展開。この作品は、多少めずらしくも見開きの挿絵が入る場面もあるんですが、それがまた作中の盛り上がりと相まって、実に効果的です。 友野節が光ると言えば、ストーリー以外の面でもそれは全力全開。まず魅力的なのは各登場人物でしょーかねー。どんな時でも軽口を絶やさないお軽い性格、でもそのナカミは誰より誠実でまっすぐな、愛と正義の小悪党こと主人公・ウィル。引っ込み思案でどうしても自分を前に出せない、でもその芯には強い意志を秘めたヒロイン・フィリーア。豪放磊落な性格と無敵の拳技をほこるトゥーガに、裏社会では名を知らぬ者無しの剣鬼ことペルーンと、とにかく主要キャラはステキな連中ぞろいです。他にも、ウィルに支えられまた逆に彼の支えにもなっている泥虫街の子供達や、圧倒的な存在感と強大な権力・武力をもって立ちふさがる敵などなど、そのあたりの描写についても友野さんらしい描き方。特にブルナ家の主婦ベディさん四十三歳はオイシイとこ持ってってるしな(笑) 世界設定の描写なんかでも、その点は健在。三つの大地と三つの海が交わる「世界のへそ」・トウクリクラという大都市の様子は、そのオリエンタルな雰囲気には実在の都市を参考にしていつつも、乗用車代わりの空飛ぶ魚や魔術・呪法などでファンタジーらしいテイストをこれでもかと盛り込んでいて、例を見ないような独自性の高さをみせてくれます。バトルの展開では、ファンタジーらしく魔法も多数登場しますが、主人公は魔法以上に不可思議な能力を秘めた生き物を駆使して戦うといった、一風も二風も変わった面白さ。本編クライマックスには、強大な魔力によって具現化された巨体の”カミ”が戦いあうとゆー、文字通りにデカいスケールで描かれる大バトルが、本作の独自性をさらに加速させてる印象。とにかくまぁ、ストーリーの疾走感っつーか、それらを描く世界のスケールっつーか、そこで活躍するキャラクターの魅力性っつーか、それらが最高に友野さんらしい文章で読ませてくれる、そんな作品なのですよねー。
もう駄目に決まってる。どうあがいても助かりそうにない。これまでにないくらい、限界ぎりぎりまで攻めこまれた。 だからこそ。 そんな状況だからこそ。 心がたぎる。血が燃える。生きている実感がある。生き抜いてやろうと思う。楽しくてたまらない。腹の底から、笑いが湧いてくる。諦めてたまるか。くじけてたまるか。とことん俺を追いつめろ。 「面白がってやるからさぁ!」 決戦直前、心を全力でたぎらせるウィル・クルアッハここにあり! いやー、なんつーのかなぁ、このまるで逆ギレするみたいに燃え上がっていく気持ちの高ぶりみたいな感覚、分かるでしょーかね? 崖っぷちに追い込まれてなお、表情全体で浮かべる不適なまでの笑みみたいな、そんな系統の気持ちの動きとゆーか。この巻、名場面候補は正直いくつもありましたが、今回は燃えるハートをスピード感最高で描写してくれてるこの場面を選出。 |
第2巻>