感想・小説編。
そして龍太はニャーと鳴く
著者:松原真琴
出版元:ジャンプJブックス
大抵の猫は人語を約二割程度しか解さないが、私は完全に人語を理解している。しかし私の方がいくら人語を解そうとも肝心の人間の方が私の言葉を解さないのでは一方通行も甚だしい。気が遠くなるほど長い間、私は自分の言葉を理解出来る人間を捜し続け、そうしてようやく見つけたのが龍太、つまりは今の飼い主なわけだ。 17ページ フェリスの独白より
本作の、そもそもの出会い(?)のキッカケは少々変わっておりまして。松原さん当人が運営しているWEBサイト(フミンフキュウ.)に最初ハマって、それでそのうち「著作をチョイと読んでみようか」などと思い立ちまして。んで実際買って読んでみて、やっぱり作品も面白かったと。そんな流れでいまレビューを書くに至っておる次第デス。まぁ、本作を楽しめたのはある意味じゃ当たり前の話で、筆者のサイトが面白いということは筆者の感性に合うってことでもあるんだから、そりゃ当人が書いた小説だって面白いと思うわぁな。 とまぁ、そんな馴れ初めなんぞさておいて、中身の感想をば。感想…カンソー……やっぱ猫か。「猫の一人称」ってのが本作の基本スタイルですが、ソレについて、なんつーのか、奇妙に感心させられるほど良く描けてる。筆者が猫好きで実際飼っているというのに加えて、猫のことを日頃よく観察しているからこそ書ける描写なんでしょうきっと。私自身は猫を飼った経験って皆無なんですが、それでも本作を読んでると「あぁ、その考え方猫っぽいなぁ」とか「へぇ、猫ってそういう行動すんのか」とか思わされたりして。コレ、猫買ってるヒトが読んだら、また別に面白い感想聞けそーな気がしたり。あと他では、作品全体に流れる「優しい雰囲気」ってのもポイントでしょうか。ダブルの主人公である(と自分では思ってるのだが)フェリスと龍太の、飼い主・飼い猫というモノを越えた特別的な絆を筆頭にした様々なキャラクター同士の繋がりや、収録2作どちらともに共通する爽やかな締めくくり方などなど、これら全体の根底にある穏やかな空気感が読んでてとても心地よく。ぶっちゃけ物語自体はソレほどメリハリが強いでも無いシロモノなんですが、この作風のおかげでワリとイイ感じの読後感を残してくれちゃってます。う〜ん、やっぱ単純に松原さんの感性とソリが合ってるってことなんだろな。どっちかっつったら、”コレ”ってモンも別に無い、ぜんぜん普通のストーリーなんだけどねー。でも好きなんだよねー。
『なぁ』 龍太が振り向く。 『スゴくきれいだろ?』 ……月のことだろうか? 僅かに首をかしげてみせる。 『オマエが、だよ。俺の目から見てさ』 器用に窓枠の上で回り、全身を私に見せた。 『ぼんやり光ってるみたいに見えるんだよな。……すごい自慢なんだ。オマエのこと』 龍太が何を言いたいのか、わかった。まだ湿ったままの背中にそっと手を置く。 「傍にいる。お前が死ぬまで。ずっとな」 本編ラストの、龍太が『想い』を語るシーン。この、絵に浮かぶような描写や、お互いの間にある絆とが織りなす、穏やかで優しい雰囲気がとても良いワケでして。こういう場面は他でも色々あるけれど、表題作のラストってこともあるし代表してココを選出。にしても…やっぱフェリスって、猫又とかそういった”存在”なんだろーな、きっと。あ、これ一種のネタバレか。 |
2005/02/28