感想・電子遊戯編。

風来のシレンDS

発売元:セガ 開発元:チュンソフト

対応ハード:DS

風来人ふうらいにんって奴には、風貌はもちろん立ち振る舞い、性格からしても実に千差万別の人間がいると思うんだが、たった一つだけほぼ間違いないってくらい、誰にでも共通している部分がある。

どんな風来人だろうと、リーバ八獣神が一柱、旅の神クロンの追い風を何よりも信じているってところだ。


今回俺が挑んだダンジョンは、『フェイの最終問題』と名付けられた「変則地形」だ。

フェイってえのは人の名前。自らを「地変学者」と称する、異国風の出で立ちをした珍妙なオッサンだ。ひょろりと伸ばした泥鰌どじょうのような髭が、その風貌に愛嬌を与えてると言えなくもないだろうな。

その地変学者のオッサンが、何かの拍子に見つけちまったダンジョン。そいつが『フェイの最終問題』だ。

なんで「最終問題」なんて名付けられたかについては、さらに長ったらしい説明が必要になっちまうんで、割愛させてもらうとして。

ともかく、俺がこのダンジョンに挑戦している理由はただ一つ。このダンジョンが、今いる「こばみ谷」に存在するどのダンジョンよりも、踏破に困難を要する道のりだからだ。

前人未踏の土地、知る者のいない光景、幾多の難関、あれやこれ。

そういった言葉に、風来人って人種はめっぽう弱い。到達不可能と言われたなら、どれほどの苦難がそこに待ち受けようと、挑まずにはいられない。誰も知らない"道"の先に何があるのか。そこを己の足一つで歩み進め、自らの知恵と勇気でもって未知を切り開く。それが風来人にとっての本懐であり、そんな人間にこそ、旅の神クロンはその追い風を吹かせてくれるのさ。


今回の挑戦は、ここまでで進んできた数地形、階数で言えば地下8階ってところかな、それまでの道程を振り返ってみても、実に順調と言えただろうな。

不可思議な魔力のおかげで、どんなアイテムの持ち込みも許しちゃくれないこのダンジョンにあって、道中に拾えるアイテムはまさに死活を分ける運命線だ。そこを行くと、装備品はそこそこの代物が手に入っているし、ギタンの実入りも悪くはないし、回復用の草にしたって不足は無い。おにぎりも2〜3個拾えてるしな。

そう、食料はなんにつけたって重要だ。風来人と言えどもしょせんは人間さ、どれほど挑戦心が刺激されるような冒険だろうと、腹ぺこになってぶっ倒れちまっちゃあ、お話になりゃしない。昔っから「腹が減っては戦は出来ぬ」と言うからな、どんな時だろうと飯の事だけは疎かにしちゃならないもんだ。俺たちはクロンを崇めてるとは言え、食の神ブフーへも信心を忘れない。美味いおにぎりにありつけた時は、いつだってブフーに感謝するのさ。

順調ついでにもうひとつ、この階層には店まで開いてた。こちらの懐具合が寂しいときには、小太りな店主が浮かべる愛想笑いはかえって辛く感じちまう所だが、手持ちが充分に足りている今みたいな状況なら、これほどありがたい遭遇もないってもんだ。

店主から入店の挨拶を受けてから、陳列されたアイテムを一つずつ確かめていく。売り物を拾った瞬間に、店主は目を光らせて通路との出入り口をサッと塞いだ。

こいつはまぁ、言っちまえば泥棒対策って奴だな。部屋の出入り口を塞がれちまえば、特別なアイテムでも使わない限り、そう簡単に店の外には出られなくなるからな。

…何? なら店主を倒してしまえば良いだろうって? おいおい、もしかしてあんたは泥棒神ギトーの信奉者かい?

そもそもだ、俺から言わせてもらえば、そいつは悪い冗談以外の何者でもないぜ。ダンジョンに店を構える店主ってのは、ここから遥か遠くの地にそびえる「シュテン山」を総本山とした、商業神サカイの教えを何より尊ぶ特別な一族でな。彼らはどんなに深いダンジョンや異境でも商いが行えるよう、ダンジョンを徘徊するモンスターどもだって負けないために、屈強な戦士にも匹敵した鍛練を積んだ猛者でもあるんだ。

ひとたび泥棒を行えば、そいつはそのまま命の危機にも直結しかねない。なぜなら敵に回った店主は、いかに強固に鍛え上げた盾を持ってしても防ぎきれない、強烈な頭突きを食らわせてくるからだ。しかも、つい見た目に騙されそうになるが、本気を出した彼らは驚くほど足が速い。

更に加えて、盗みがバレた瞬間にゃあ、その階層には店主のお仲間である盗賊番と番犬がわんさと押しかけて、そいつらから一斉に追われる始末だ。この容赦ない追撃をかわしてまんまと盗み仰せる奴は、ギトーの逆風にもめげない、よっぽど頭の回る小悪党ぐらいのもんだぜ。

……え? なんでそんなに泥棒について詳しいんだって? いや、それはまあ、風来人としての一種の嗜みって奴で……ま、まあとにかくだ、泥棒をしようと考えるのは、愚か者の所業だってことが言いたいんだよ。

俺にそんな物騒な考えは端っからない。まず手持ちの無用なアイテムを売りさばき、使えそうな売り物をいくつか買い取る、そういう真っ当な買い物をしたかっただけだったんだ。ところがなあ………

俺が店の売り物を持ち歩きながら物色を続けていると、出入り口の所に新たな物陰が現れた。そいつは、ガイコツまどうと呼ばれるダンジョンモンスターだった。手にした杖から放つ魔法弾で様々な特殊効果を及ぼしやがる、割合厄介な部類に入るモンスターだ。

だがまあ、今はそれほど驚異に感じちゃいないけどな。なんせ出入り口は店主が封じてくれてるんだ、向こうさんがこっちに襲いかかるためには、まず店主を倒さなけりゃいけない。もっとも、魔物にしたって店主の恐ろしいほどの強さが分かってるのか、わざわざ店主に喧嘩を売るような真似はしようとしなかったが。

だから俺は、そのとき油断していた。そう、本当に油断してたんだなあ。

また次のアイテムを確かめようと移動したとき、俺とガイコツまどうはちょうど斜め同士の位置に立つことになった。後ろをちらりと振り返ると、みすぼらしい衣服をまとった魔物のドクロの奥に宿る鬼火のような目と、視線が一瞬交差した。だけど、彼我の距離はしっかり数歩分離れていたからさ、俺はそのまま何も気にせず、足下に置かれていた巻物を手に取ったんだ。

その瞬間だった。亡霊じみた姿の魔導士が、店主と通路の壁の隙間を縫うようにして、その杖から魔術を放ってきたのは。

瞬きするほどの時間も必要なかったように思う。気が付いた時には、俺はほんの今までいた店の部屋とはまったく違う、そこに行く途中で通り過ぎてきた、同じ階の別の部屋に、瞬間移動させられていた。

当然、手には店の売り物だったアイテムを握ったまんまでな。

そう、俺はその時うっかり失念してた。ガイコツまどうが放つ魔法弾は、斜め方向でさえあれば、障害物と関係無しに発射出来るって事を。そして、ガイコツまどうの杖に込められたいくつかの魔術の一つに、対象をフロア内の別の場所に強制的に瞬間移動させる効果があるって事を。

俺は多分、そのとき呆然って奴を絵に描いたような表情をしてたんだと思う。フロア中に鳴り響く泥棒追いの警笛が、やけに遠くに聞こえたっけ。

何度も言うけどな、俺には泥棒をしようなんてやましい心は、欠片もありゃしなかったぜ。だけどそんな弁解の余地なんて、こちらには一切与えられやしない。たとえ意図してやった事だろうが、その気なんてギタン1枚分もない過失の結果だろうが、代金も払わず店の物を外に運び込んだ瞬間にもう、否応なく泥棒様の仲間入りだ。

これで飛ばされた先が階段のある部屋だったなら、まだ日の目も見られたんだがな。どうやらこの時の俺に、ギトーの祝福はなかったらしい。瞬間移動したのは、目当ての部屋からは何十歩も離れた場所だった。

これからいくつも数えないうちに、泥棒番たちが殺到してくるのは間違いない。彼らが目の前にやってきたて、その十手で脳天に良いのをくれたら・・・・・・・・、次に目が覚めたときお目にかかるのは、「渓谷の宿場」に建つ宿の見慣れた天井。つまりは、探索失敗って事だ。俺の今回の冒険は、せっかく拾ったアイテムからモンスターと戦って得られた経験値まで一切合切、全てが無に帰るって寸法さ。

今回のこの有様は、まあ正直に言って、十割まるごと俺の注意不足が招いた結果だ。誰にも文句を言って良い筋合いじゃない。だからこそ余計に気落ちも激しいんだけど…

ただ一つ、何よりはっきりしている事がある。

どうやら今日の俺には、旅の神クロンの追い風は吹いていなかったってことだ。



――以上、私の実体験に基づいたリプレイ風味のSSショートストーリーをお送りしてみました。風来のシレンとは、つまりはこんな具合のゲームです。死なば即座に全てを失うスリリングさとか、行動の一手一手を将棋のように組み立てていく知略性だとか、オリエンタルな雰囲気で構成された独特の世界設定だとか、本作の持つ魅力はひとことで言い表せないくらい多岐に渡るモノですけれど。その中のひとつに、上記にて書いたよーな毎回のプレイにドラマが巻き起こる、ってのも確かにあると思う次第でして。今回のこの失敗談、カンタンにまとめちゃうと「店で買い物してたらガイコツまどうにワープさせられて泥棒扱いで死亡ってコトですからねー。タカがそれしきの事を読み物っぽく仕立ててみただけで、よもや原稿用紙10枚分規模の文章に変貌しようとは(大爆笑) …いやホント、全体の概略はあらかじめアタマに入れてあったとはいえ、まさかココまで膨れあがるとは…(←なんとなく遠い目)

ともかく、風来のシレンDSのレビューです。まぁなんでしょーね本作、個人的にはトリプルSクラスに大好きなシリーズの最新作ってことで、端的に評価を下すなら超面白ぇ」の4文字で話は終わってしまう……んですが、それだとミリグラムもレビューになってないのでマジメに要点を噛み砕くとすると。そーですね、職人芸の域とさえ言える巧みなゲームバランスこそが、本作の魅力を最も作り上げてる部分なんじゃないかなー、と思うワケでして。

とにかく本作、時には真綿で締められるがごとく徐々に徐々に、時にはたった1ターンの行動で一瞬にして、ありとあらゆるシチュエーションでもって散り逝くのが特徴なんですけど。その無数の死に様の98%が自分の所為、テメェ自身のプレイミスゆえにまねかれたデッドエンドだとゆー逃れられない事実が、プレイヤーの身に毎度降りかかるのです。上記のSSを例に取っても、各モンスターの特性を熟知しているプレイヤー(=私)であれば、ガイコツまどうの行動は想定できて当然のコトであり、ソコの注意を疎かにした時点でもう、その後に発生した転落のザマは「十割まるごと」私自身の失態なんですよ。もーホント、敵に杖を振られる&どの効果が発揮するかはランダムながらも、それでもミスったのは自分のせいですからねー。その、ミス原因が常に自分の所為だと思わされるように組み上げられた、一方的な理不尽さをほとんど感じないという巧みなゲームバランスこそが、本作のゲームとしての面白さを最大限に引き出すポイントではないかと、私は思います。合成に合成を重ねた強力無比な装備で身を固めていても、些細な凡ミスひとつでそれらを一瞬にして失う、けれどその原因はやはり自身の考え足らずであることがほとんど。ランダム性の強い面はありながら、それでもゲーム側の一方的な面はほぼ皆無だというのは素晴らしいバランス調整だと、シリーズを遊ぶたびに思い知らされる気分です。や、それでもやっぱ「フザケんなボケェ!!」と絶叫したくなるよーな状況は、たまーに起こるんですけどねー(※たまーに、どころか実際にはソッチのがほとんどなのだが)

大きな特色としてゲームバランスを取り上げましたが、やはり本作の魅力を語るにはソレだけではあまりにも不足しているのも、また事実。なかばアクションじみた操作性ながら、自分が動いて→敵が動くとゆー完全なターン制による本作のプレイシステムは、そうであるからこそ毎回の行動をじっくり緻密に決めることができ、それゆえに凶悪なピンチでも知恵と工夫ひとつで切り抜けられたりするワケで。この高い知略性が楽しめる部分は、本作に病みつきになる要素のひとつとも言えましょう。見た目の部分でも、ただの純和風ともひと味違う、まさに「オリエンタル」とゆー表現がしっくりくる本作のグラフィックやその世界設定は、何気に名曲揃いなBGMなども相まって、独自性の高い確かな魅力を構成しています。私が本作の強いファンである要因って、ゲーム本体の面白さはモチロンなんですけど、実はこの世界設定に由来してるのが強いんですよねー。「旅の神クロンの追い風」とか「秘境に挑む風来人」だとか、なんかこう、オレの琴線にビビッとクルもんが多いんだよなー(笑)

さらに他にも、DSタイトルってコトで本作はWi-Fi通信対応なんですが、その通信要素もまたグッド。今やシリーズ好例ともなった「風来救助隊」は、無線通信が可能となったおかげで煩わしいパスワード入力から解放され、またサーバに要請を登録できることもあって、救助するのも・依頼するのも共にお手軽感が増してます。また、あくまで無線通信が加わっただけであってパスワード制は健在なため、友人に緊急でメールを送るといった手段も取れるのはなおヨロシイ。選択の幅が減ること無く、数種類の中から選べるとゆーのは、実に親切な設計です。他の通信要素として、「風来番付」の全国ランクを付けられるってのもあるんですが、コレがまた、トップランカーの高得点を眺めるだけでも楽しいし、自分のスコアを登録するにしてもソレはあくまで任意で、このへんの受動性と任意性の微妙なさじ加減は個人的にかなり好みなトコロです。まぁ私は拝見オンリーのぬるま湯風来人ですが(笑)、でもやっぱ見てるだけでも充分楽しめるんですよねー。レベル1なのにHPとギタンMAXでテーブルマウンテン踏破してスコアは5億オーバーとか、本気でイカレてるとしか思えねぇものな!(※誉め言葉)

そいでは、毎度の欠点を挙げてみましょーか。グラフィックやBGMがほぼSFC版まんまだったのは、正直言って寂しかった。当時の映像でも古くささはほとんど感じない、ってのは確かにあるんですけれど、でもやっぱりせっかくの「新作」なんだから、昔見たモノと同じってのはチョット物足りなさを感じてしまうのが本音ですねー。キャラクターのグラフィックくらい、いくらかドット打ち直したって良かったと思うんだけどなぁ。あともいっこ、コレは欠点じゃないんですけど、タッチペン操作は必要なかったよね、と。もともとボタン操作での完成度がバツグンだったんだし、さらにわざわざタッチパネルを活用させようとせんでも構わんだろーて。2画面の要素は実に上手に使ってるからイイんだけどさ。


数多の風来人を呼び寄せる異境・こばみ谷。その谷の中央には、高く天へとその頂を伸ばすテーブルマウンテンが鎮座する。彼の地に古くより語り継がれるは、山の頂上に広がると言う「太陽の大地」、そして其処に住まう「黄金のコンドル」の伝説。未だ辿り着いた者の無い幻の黄金郷を求め、この谷にまたひとり若き風来人が現れた。友の形見の三度笠をかぶり、相棒の語りイタチを肩に乗せて、その旅ガラスは行く。抑えきれない好奇心を抱えた男の背に、さぁ旅の神クロンの追い風は果たして吹くのか――

ぶっちゃけたハナシ、私個人は本作を面と向かってはオススメしません(←えぇっ??! いやマジで、いっくら自分で面白いと思ってたって、こんだけマゾいゲームはそう易々と他人様に推薦できるモンだとは思えませんって。でも。それでも、その苦難をあえて承知でテーブルマウンテンに挑もうと思う方がいるのなら、運命神リーバの祝福を祈りつつ、大いにその風来人を迎え入れる所存です。こばみ谷の片隅で、「風来のHILO」はいつでも新たな旅ガラスとの出会いを待っています。



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2007/02/24