感想・漫画編。
エンシェントミスティ
原作:虚淵玄 作画:中村哲也
出版元:電撃コミックスEX
「さーてと! それじゃ、いよいよお宝探しと行きますか!! 「はい、ミスティ様」 32〜33ページ 第1話最後のシーンより
とりあえず本作、1巻読み切りのマンガとして、全体的な構成が実にまとまり良く、面白いエンターテイメント作として作られているってのが最大の良さではないかと。作品舞台の世界設定を始めとして、各キャラクターの描写、全6話のシナリオ構成などなど、それらがウマくキレイにかみ合って1巻読み切りのマンガになっている、そんな感じですねー。 では順にまず世界設定の要素。長期にわたる作品なら、連載展開に合わせて徐々に設定を読者に覚え込ませるのが常套手段でしょーが、読み切りとなるとソコが難しくなるモノで。本作はその辺の、いわゆる解説ゼリフを、時にはフツーに解説し、時には作劇に紛れ込ませて読者に開示していく事で、さほど説明的にさせず上手に作り込んでいる印象です。中でも感心するほどだったのが、7ページ・エリアールの「さて、そもそも血液を持ち合わせていませんので」ってセリフ。この何気ないひと言を出すだけで、「あぁ、このメイドさん人間じゃないのか」と読者に分からせ、ソレによりその後に出るタウンゼント卿もまたロボットだって事をイチイチ説明することなく理解させて、このマンガがそーゆー超科学ありきの作品世界だという部分まで浸透させている、と。キッチリ説明しないと伝わりにくい要素にはちゃんと解説入れてますが、冗長にならず最低限の情報によって物語を作り・読者に分からせる点は実にウマいやり方をしていると思います。 各キャラ描写についても、実に魅力的な連中揃いです。幼女姿とセクシーな大人の女とゆー2つの顔を持つ主役のミスティを筆頭に、オーパーツから生み出された戦う世界遺産メイド・エリアール、方々から寵愛を集める本作の美少年・ロコトくん、果てしなくド変態な英国紳士ロボ・タウンゼント卿、幸薄い本作唯一の常識人(?)・リコリスなどなど、いずれ劣らぬ強烈な個性の持ち主ばかり。脇役にも大陸間弾道メイド(Inter Continental Ballistic Maid)・マレアや、見開きのあと1コマで撃墜されるエールストライク・タウンゼントなど、何食ったらそんなの思いつくのかってぐらいのネタも突っ込んでいたりと、まぁ何でもアリのオモシロキャラだらけ。またこれら登場人物については、ビジュアル的にも見目良く、さらに本編のアクション作画も小気味良い暴れっぷりで描く作画の魅力もあって映える部分と言えますねー。まぁ作画については単に私が中村さんのファンだってコトもあるんですが(笑)、そーした”補正”を抜きにしても、なかなかにマッチしていると思います。 そんでシナリオですな。場違いな工芸品を土台とした舞台設定、中でも比較的名の知れたシロモノである「黄金ジェット」をメインガジェットとして、古代インカ帝国の成り立ちと滅亡とを解き明かしつつ描かれる物語は、それだけでも充分に歴史のロマンを感じさせて面白いストーリーに仕立て上げられてます。基本的にはアクション主体の冒険活劇が主体ですが、女神の栄光を護るためあえて滅びの宿命を受け入れたインカの民、その遺志を受けて復讐の怒りを静め天へと還って行くママ・ワコと、実に綺麗なラストを迎えてるのもまたグッド。上手にまとまった設定世界、魅力的なキャラクター、読み応えある物語という、「面白い読み切り」にとって不可欠な要素で過不足無く構成されたマンガ、そんなトコロが本作に対する率直な感想ですねー。 てか本作、確かに読みきりだからこそ良い面も強いんですが、本音を言えばそれ以上に、キャラも設定も魅力的過ぎて1巻完結にするには惜しいと思ってしまうほどなんですよねー。オーパーツなんてこんだけ実例が出てくるくらい今も存在するんだし、今回の「黄金ジェット編」で終わらず、もっと他の物語もぜひ読んでみたいです。あとがきみたいな数年後のストーリーもイイし、作中でポロッとでてる「水晶ドクロ」なんかも話も読んでみたいなー。まぁこの辺、私自身が解明できないもの・未知なものにワリと惹かれるタチだからこそ、本作を余計面白く読んでるのかもしれませんが…ともあれ、1巻完結でも満足できるくらい楽しいけど、それと同じくらい続編も読んでみたいと思わせる作品です。ぶっちゃけ、本作は結構オススメ漫画ですねー。
「キミは―――」 「え、なに……?」 「――年下の可愛い女の子と年上のカッコイイお姉さんとじゃあどっちが好み?」 「……はぁ?」 ―――ちゅっ――― 「じゃあね♪」 クライマックスでの、ミスティとロコトのやりとり。物語上では、ココよりも感動するシーンはあるんだけど、印象の面ではコッチのがイチバン気に入ってるとゆーか。鉄火場に、少年を煙に巻く様なセリフを投げかけといて、最後にキスして気安くお別れ。この感じが実に彼女らしい”ポーズ”だなーと思わせるんだよね。 |