感想・漫画編。

幻燈師シリーズ ボクの創る世界 

著者:カザマアヤミ

出版元:フレックスコミックス

――人に夢を与える職業はいくつかある
   手品師、大道芸、そしてもうひとつ…
   「景色」を想像イメージし、「幻燈機きかい」を通してその「想像世界イメージ」を具現化すみせる、「幻燈師げんとうし」――


「以上、幻燈師による『幻燈』でした。」 「ちがうわよーッ!!

4〜6ページ 第1話冒頭のシーンより


本作、基本はいちおう月刊誌掲載作みたいなんだけど、私が当初読んでたのは誌面じゃなくて、Yahoo!コミックでのブラウズ上からだったりするワケで。こーゆう経緯でマンガ作品を知るってのも、いまさら感強めながらも何気に現代的な感じがしますなー。それでは、計4本の読み切りシリーズからなるコミック、幻燈師シリーズのレビューを開始しましょう。

まず本作の特徴は、何はともあれ題名にもある『幻燈』、コレに尽きるでしょーね。この幻燈機というモノがどういうメカニズムなのか、具体的にどういう動力だったりするのか、そもそもなぜイメージが具現化するのかなどなど、そういった細かい設定はとりあえず全部余所に置いといて、「ただこういう機械があるんですよ」とゆーコトで描かれるこの、幻想が現実に現れるという様が実に魅せる。抜けるような一面の空と草原、舞い乱れる花々など、幻燈が彩る各話のメインシーンは、まさにこの幻燈(機)というガジェットによってこそ表現されうる夢幻のごとき美しさ、といったおもむきに溢れております。ホント、作者の「コレをやりたくってこのマンガを描いてるんだ」っていうような感情が、その見開きから伝わってくるんですよねー。そしてこの幻燈機ガジェットを通して語られる、幻燈師のタマゴである少年少女らがそれぞれに織りなす青春恋物語としての作劇もまた、幻燈自体の幻想性と重ね合わされて魅力的に描かれていくのがさらにグッド。ほんの一歩だけ現実リアルから外れたような不可思議ファンタジックな幻燈と、ソレを通して紡がれていく淡い恋の青春ストーリー、これらの融合に本作の魅力が存分なほど詰め込まれているのです。

ではでわ、読み切り構成4部作だし、各話の感想をやってきましょーか。まず1本目『キミに魅せる空』。…このタイトル、よーく考えるともの凄くストーリー内容にハマった題名なんだなぁ。もうホント、この言葉の通りの物語としか言い様がありませんな。「見せる」でなく「魅せる」、あるいは「魅せられた」?、そんな展開。あと個人的な印象ですけど、全4作中でこの回が最もボーイミーツガール的な雰囲気の強い作劇ですねー。そういったトコロからも、確かにシリーズ第1回に相応しい内容だと思います。

続けて『ラストプラトニックブルー』。コチラもまた改めて気付くと、上手く本編の内容を示した題名ですね。んで、実は当方、収録4話中でこの回だけWEBコミック上で読んでなかったりして。どーしてだろ、2話の掲載が終わった後で本作のこと知ったからだっけかなぁ。元々初めっから読んでたワケでは無かったりするものでして。閑話休題。早めに言っちゃうと、この回がイチバン好きですねー。設定解説の部分が他より多めというチョットした難点もあるんですけど、今回のカップルのやりとりや関係性だったり、切ないながらもハッピーエンドに締めくくられるシナリオだったりが、他の回よりも気に入る印象をどこか抱かせます。言ってしまえば暗めのお話なんだし、こーゆう作劇自体が好みってんでは別にないんですけどねぇ、ソコ行くと少々フシギですな。にしても奏風そよかさんや、次回以降の出番ではネコ被ってるようにしか見えねぇな(笑)

次、『ちびっこクロスゲーム』。2話目と対照的に、コチラはスラップスティック的な賑やか&楽しい印象の強い展開ですね。カバー下のあとがきから見ても、作劇面は置いといて、作者的にはこの回がイチバン描きやすい内容だったんじゃないかなぁ。98ページの顔の崩れっぷりとか実にイイ感じだ(笑) てかそーか、他と比べてページ数が少ない回なんだなコレ。でも話のテンポが良いおかげで、そういう印象は全然ありませんね。それにしても、ラストページの懐きっぷりはコレまたなんとも微笑ましいなー。

最後、『ボクの創る世界』。いちおう表題作になったりするワケか、コレ。各話立て続けにカップルが誕生していながら、正式に付き合ってる同士なのは今回のふたりだけとゆー、なんともフシギな幻燈師シリーズ(笑) まぁ冗談はさておき、反面そういう関係のカップルであるために、幻燈で心の"イメージ"を魅せるコトはできても自分の中の"気持ち"をみせるコトは難しい、といった恋愛模様のすれ違いを描いた内容で、シリーズの締めくくりに相応しいと共に、幻燈と青春恋物語の重なりという本作の魅力がストレートに描かれた内容になっております。各話のメインキャラがひとしきり登場するトコなんかにも、連作モノらしい面白さが出てますねー。



▽自薦名場面 ― 82〜83ページ

 「――秋津あきつ私のさいごは あんたにあげるね。


  ―――ありがとう」

てなワケでイチバン気に入ってる2話から選出しました、川波奏風かわなみ そよかのさいごの幻燈。つっても今回の場面選出は幻燈シーンそのものは抜かしてるワケなのだが(微苦笑) なんていうんだろうねぇ、このシーンの泣き顔は本当にきれいで同時に儚くてさぁ。これでもう最後だという幻燈に対する別れの悲しさ、でもその最後を魅せてあげたいと心から思える相手に出会えたことへの嬉しさ、そんな気持ちが重なり合った静かなセリフと涙の微笑みが、とても心に残るそんな一瞬です。



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2008/03/18